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豚処分悲しき注射

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豚処分悲しき注射 県獣医師の岡部さん 豚コレラ早期収束願う 

2019年9月14日(度) 北日本新聞 

殺処分される豚は、驚くほど従順だったという。
県西部家畜保健衛生所(砺波市)の獣医師、岡部知恵さん(42)は5月、豚コレラが発生した愛知県の養豚場で4千頭超の処分に関わった。
食用のため奪われる命かもしれない。
しかしウイルスの封じ込めのため、発症していない元気な豚に薬剤を注射し、手にかけるのはやるせなく、心が痛んだ。
「一日も早く感染が収まってほしい」と願う。
(政治部・高嶋昭英)

 

養豚場で感染した豚が1頭でも見つかれば、法律に基づき全頭が処分される。
「医療行為」が伴う実際の作業は獣医師にしかできない。
岡部さんは5月、白い防護服に身を包み、感染が発覚した愛知県田原市の養豚場に入った。
膨大な頭数に上るため、国から応援要請を受けていた。
「びっくりするくらいおとなしく、誘導に従ってくれた」。
県職員や自衛隊員が豚を場内の一角に追い込み、獣医師が電気ショックで動きを抑えて注射針を刺す。
作業はこの繰り返しだ。
多くの豚は従順に岡部さんの元に駆け寄った。
中には危険を察知したのか、じっと動かない豚もいた。
200キロ近い巨体。
ロープをかけて力ずくで引っ張っても動かない。
それでも農場主がいつものように体をトントンとつついて合図すると、前に進んだ。
覚悟を決めた農場主の淡々とした表情が逆に切なかった。
本来なら動物の命を守る仕事。
飼い猫の命を助けてくれた獣医師に憧れ、この職業を選んだ。
県西部家畜保健衛生所では農家の相談を受け、家畜の体調管理を担う。
「養豚場にいるのはまだ発症せず、元気な豚がほとんど。処分するのは抵抗があった」。
殺すのが目的ではない。
ウイルス封じ込めのためと自らに言い聞かせた。
8時間3交代の夜通し作業は3日間続いた。
慣れない作業に心の変調を来す職員や自衛隊員もいる。
母豚を押さえ込めば、愛らしい子豚たちが寄ってくる。
電気ショックで悲鳴を上げる豚もいる。
「生まれたばかりの子豚って、本当にかわいいんですよ」。
自衛隊はカウンセリング係も同行し、隊員の心のケアに当たるケースもあるという。
収束の兆しが見えない豚コレラは中部地方を中心に感染が広がり、処分された豚は13万頭を超えた。
県内でもウイルスを媒介するとされる野生の感染イノシシが見つかり、関係者は不安な日々を過ごす。
岡部さんは「殺処分を望む農家なんていない。懸命に防疫に取り組んでいる。獣医師はその力になりたい」と語る。
豚コレラについて正しく理解し、冷静な行動を呼び掛ける。
「豚コレラは豚とイノシシ特有の病気。感染した肉が流通することはなく、もし食べたとしても人体に影響はない。安心して食べてほしい」

◆豚コレラ◆
豚とイノシシ特有のウイルス性の家畜伝染病。
致死率が高い。
人にうつることはない。
2018年9月、国内では26年ぶりに岐阜市内の養豚場で発生。
国の調査では、海外から持ち込まれた感染した肉や加工品が廃棄され、野生イノシシが食べたことで感染が広がった可能性が高いとされる。


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