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犬と猫が支えてくれた[認知症介護あるある]

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手足マヒの父さん その時、愛犬「クロ」が…
 犬と猫が支えてくれた[認知症介護あるある] 

2019年7月27日(土) yomiDr.(ヨミドクター)岡崎杏里

認知症介護あるある~岡崎家の場合~
老人ホームでアニマルセラピー(動物と触れ合い、心を癒やす療法)を取り入れたところ、入居者たちに笑顔が増えたというテレビのニュースを見ました。
そのニュース映像の犬や猫を見ていたら、天国に旅立って10年以上がたつ愛犬「クロ」や、知人にもらわれていった愛猫「トラ」との日々が、鮮明によみがえってきたのです。


漫画・日野あかね

◆犬って、表情豊か!
私が高校生のときに岡崎家の一員となったクロ。
それまでも途切れることなく犬を飼い続けてきた我が家ですが、室内で飼うのはクロが初めてでした(大きめの中型犬なのに……)。
それまで庭で飼っていたわんこたちと違い、クロはずっとみんなと同じ空間にいます。
それで気が付いたのは、「犬って、こんなに表情が豊かなんだ!」ということ。
とにかく表情がクルクル変わるのです。
困ったときは眉間にしわが寄り、うれしいと口角が上がります。
たとえ言葉が通じなくても、その表情から「今、クロは何を考えているか」がわかるような気がしたのです。
子犬のころから、クロの散歩は父さんの担当でした。
22キロまで成長したクロがリードを引く力は、かなりのものです。
父さんが脳出血を起こした後、いくらリハビリといっても、手足にマヒがある状態で散歩に連れていくのは難しいだろうと、私たちは半分諦めていました。
ですが、「クロの散歩は続ける」と、父さんは譲りません。
仕方がないので、私が付き添うことになりました。

◆どっちの「散歩」?
いつものようにリードを握った父さんですが、ぎこちなく踏み出す一歩がとても小さく、以前の何倍も時間がかかります。
待ちきれなくなったクロが走り出したら、あっけなく転んでしまうだろうと、見守る私も気が気ではありませんでした。
ところが、散歩が大好きで外に出るといつもはしゃぎ回るクロが、この時はまるで別犬(?)のように静かだったのです。
思うように動かない足で一生懸命、前に進もうとする父さんの顔を何度も見上げながらゆっくり歩き、時には立ち止まって歩調を合わせます。
その表情は穏やかで優しく、まるでヘルパーさんのよう。
一体、どちらが見守る立場なのか、わからなくなる感じでした。
そして、クロは高齢になって散歩に行くのが難しくなるまで「わんこのヘルパー」として父さんとの散歩を続けました。

◆「猫の手」を本当に借りた
クロが生きていたころから、我が家に出入りしていたのがトラです。
猫好きの地域住民がみんなで世話をする「地域猫」だったのですが、クロがいなくなってしばらくして、ほかの人たちと話し合った結果、我が家のペットに昇格しました。
かつてクロが座っていたソファが今度はトラの定位置になりました。
トラはすでに高齢ということもあり、一日のほとんどをゆるゆるとソファの上で過ごしていました。
父さんが粗相をすると、着替えや掃除でてんてこ舞いになり、まさに、ソファで寝ているトラの「猫の手も借りたい」状態に。
まだ幼い息子のたー君を見る余裕もなくなってしまうので、冗談半分で「トラ、たー君のお守りをよろしく!」なんて言っていました。
すると、なんと本当にトラがたー君の相手をしてくれるようになったのです。
私と母さんが父さんの介護で慌ただしくなると、トラがソファから重い腰を上げて大きく伸びをして、たー君に歩み寄ります。
そして、額をたー君の体に押しつけてスリスリして喜ばせたり、短いしっぽをフリフリして気を引いたりしてお守りをしてくれるのです。
そのたー君も、来年は小学校に上がります。
「にゃんこのベビーシッター」のおかげか、動物が大好きな優しい子に育ってくれたと思います。

◆離れて暮らすようになっても…
ペットにも支えられて、20年超の介護の日々を乗り越えてきた私たち家族。
しかし今、岡崎家にはペットがいません。
母さんが体調を崩してトラの世話をするのが難しくなり、少し前に地域猫活動の仲間にトラを譲ったのです。
元気に暮らしているトラに、母さんはときどき会いにいっているようです。
今の飼い主さんが「岡崎さん、来たよー」というと、「ニャー」と部屋から出てきて、母さんが帰るまで額を当ててスリスリをしてくれるのだとか。
離れて暮らしていても、トラなりに岡崎家のことを心配してくれているのかもしれません。
そして、トラのアニマルセラピーを受けた母さんは、いつもより少しだけ父さんに優しくなるのです。
 
岡崎杏里(おかざき・あんり)

ライター、エッセイスト
1975年生まれ。23歳で始まった認知症の父親の介護と、卵巣がんを患った母親の看病の日々をつづったエッセー&コミック『笑う介護。』(漫画・松本ぷりっつ、成美堂出版)や『みんなの認知症』(同)などの著書がある。2011年に結婚、13年に長男を出産。介護と育児の「ダブルケア」の毎日を送りながら、雑誌などで介護に関する記事の執筆を行う。岡崎家で日夜、生まれる面白エピソードを紹介するブログ「続・『笑う介護。』」も人気。


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