「大きな一歩踏み出した」改正動物愛護法のポイントと残された課題
2019年7月1日(月) 弁護士ドットコム
猫(2018年/弁護士ドットコム撮影)
議員立法による改正動物愛護法が、このほど衆参両院の本会議で全会一致で可決されて、成立した。
改正法には、
(1)犬猫の展示販売の8週齢規制(生後8週まで販売禁止)
(2)業者の遵守基準の具体化
(3)マイクロチップの装着・登録義務化
(4)動物虐待に対する厳罰化
――などが盛り込まれた。
改正に尽力した公益財団法人「動物環境・福祉協会 Eva」代表で、女優の杉本彩さんは6月19日、都内で開かれた院内集会で、「私たちが望む理想のかたちに着地したわけではないが、大きな一歩を踏み出した」と語っている。
多岐にわたる改正があったとはいえ、まだまだ改善すべきところも残っているということだ。
今回の改正法のポイントと課題について、動物愛護法にくわしい細川敦史弁護士に聞いた。
●動物殺傷罪の法定刑の上限が「5年」になった
今回改正された内容として、テレビや新聞で、犬猫に「マイクロチップ」装着を義務づけることが大きく取り上げられましたが、この点を含め、次のようなポイントがあります。
まず、
(1)幼齢犬猫の展示販売について、いわゆる「8週齢規制」がようやく実現することとなりました。施行は2年後です。
ただし、もっぱら日本犬を繁殖する業者から、直接、飼い主に販売する場合には、49日でよいとする特例ができてしまいました。
(2)環境省令で定める業者の遵守基準について、設備の構造および規模、従業員の人数、繁殖回数・繁殖に供する動物の選定、そのほか繁殖の方法に関する事項などについて、具体的に定めることが明記されました。施行は2年後です。
(3)マイクロチップについては、犬猫等販売業者の段階で装着と登録が義務づけられます。施行は3年後です。
(4)動物殺傷罪の法定刑の上限が、これまでの「懲役2年」から「懲役5年」へ大幅に上がりました。虐待罪と遺棄罪にも、これまでの罰金刑のみから、「懲役1年以下」が加えられました。
●「ペット動物から次のステージに向かうことも考えていくべきだ」
業者の遵守基準は、具体的には、環境省内に昨年設置された「動物の適正な飼養管理方法等に関する検討会」で検討されることになると思われます。
ただ、ここで具体的な数値規制が入らなければ、動物行政担当者はこれまでのように、基準が曖昧なために業者に強い指導監督ができず、子犬工場や引取り屋などの酷い現場を黙認する結果となりかねません。
業者の遵守基準を具体的に定めることを明記した今回の法改正の意味がなくなることのないよう、環境省でのこれからの議論の経過をしっかりと見守る必要があります。
また、繁殖業(あるいは素人繁殖を含めた繁殖行為全般)の規制強化や、多頭飼育崩壊現場での「所有権の壁」の問題については手つかずのままです。
さらに、学校飼育動物や実験動物、畜産などの動物についても、法律で定める必要があります。
次回以降の法改正は、ペット動物から次のステージに向かうことも考える必要があるでしょう。
ちょうど、今回の改正法に関する国会質疑の中で、「動物福祉基本法」をつくって動物全般に対するアニマルウェルフェア(動物福祉)を確保していきたい、という議員の発言もありました。
監督官庁が複数にわたることや利害関係が複雑となり、簡単ではないかもしれませんが、ぜひとも実現に向けて検討してほしいです。