犬や猫の命はこれで守れる?悪徳業者の規制がゆるい改正・動物愛護法
2019年6月13日(木) 女子SPA!
ここ数年で、全国各地で保護猫カフェが誕生したり、殺処分ゼロを目指す動物愛護団体などの動きが活発になってきています。
それだけ動物の命を守りたいと思う人が増えてきているということ。
この風潮を受けて、6年ぶりに動物愛護法が改正されることになりました(6月12日に可決・成立)。
これで犬や猫を取り巻く環境はよくなるでしょうか?
愛玩動物飼養管理士である筆者がポイントを解説します。
(女子SPA!)
捨てられる犬猫を減らせる「8週齢規制」とは
1999年に制定された動物愛護法は、2005年と2013年に改正されました。
ですが、「動物は命あるもの」という謳(うた)い文句とは程遠い内容だったので、疑問の声が投げかけられ続けてきました。
そうした声を受け、今回の改正ではようやく日本でも「8週齢規制」が定められることとなりました。
「8週齢規制」とは、ペットショップなどで生後8週(56日)未満の犬猫の販売を禁止すること。
犬や猫は生後2ヶ月の頃、「社会化」の時期を迎えます。
この時期に親やきょうだいたちと触れ合うことで、犬猫は他者との関わり方を理解します。
じゃれ合いを通して、噛む強さや群れの中での立ち振る舞い方を学んでいくのです。
今までの動物愛護法では生後7週齢(49日)での販売が認められていたため、社会化がうまくいかず、成長していく段階で噛み癖などの問題行動が見られることも少なくありませんでした。
そして、困った飼い主がペットを手放してしまう、という悪循環につながります。
だからこそ、8週齢規制は殺処分ゼロを実現するためにも大切なポイントになるのです。
動物先進国であるアメリカやイギリスなどでは、8週齢規制はすでに導入されていますが、州や地域ごとに規定が違ったりします。
一方、日本では法改正によって、全国に8週齢規制がかかるので、「動物後進国」から脱却する大きな第1歩となるはずです。
そのほか、改正動物愛護法によって、マイクロチップの装着がペットショップやブリーダーに義務付けられ、動物虐待への罰則が強化されることになりました。
ですが、今回の改正ではまだ不十分な点も多いと思うのです。
悪徳業者をなくすため「免許制」にするべき
以前から、動物取扱業を「登録制」ではなく「免許制」にすべきだという意見はありました。
でも今回の改正案では、残念ながら「免許制」は盛り込まれていません。
イギリス、ドイツ、スイス、スウェーデン、アメリカなどはすでに「免許制」です。
でも日本では、ペットショップやブリーダーなど営利目的で動物を販売・展示する「第1種動物取扱業」は、管轄する自治体に登録するだけでOKなのです。
つまり、動物の命を手軽に扱えてしまう危険性があるわけです。
そして、行政には強制的な立ち入り権限がないので、不適切な飼育をしていても、業務停止命令や登録取り消しが行われることは、これまでほとんどありませんでした。
遠からず、「届出制」から「免許制」にするべきではないでしょうか。
ペットショップや猫カフェの設備にも細かい基準が必要
2018年7月に「猫カフェMOCHA」の立川店で起きた、パルボウイルスによる猫の死亡事件をご存じでしょうか。
パルボウイルスに感染した猫5匹が次々と亡くなり、元スタッフと思われる人がtwitterで告発。
数日後に、社長がようやく関東の約10店を一時休業にしたのです。
その後、「週刊朝日」(オンライン)の取材によって、病気の猫を隔離する部屋がなかったなど、実態が明らかになりました。
こうした事件や、劣悪な繁殖業者・ペットショップが社会問題化していることを受けて、飼育施設の広さや構造を具体的な数値で規制することも検討されています。
現在の動物愛護法には、飼育施設などに関する具体的な数値が記されていません。
それは、施設経営者の「これくらいでいいだろう」という油断を生む原因になっているのではないでしょうか。
そして、近ごろでは飼い主のいない猫の里親を探す「保護猫カフェ」が全国的に増えてきているからこそ、ペットショップだけでなくアニマルカフェの飼育施設の数値を具体化することも大切なように思えます。
「命を救いたい」という気持ちが強いオーナーは、少々無理をしてでも動物たちを助けようとします。
ところが、ほんの少しの無理が積み重なると「多頭飼育崩壊」(たくさんの動物を飼おうとして、飼育しきれなくなる)という悲しい事件が引き起こされてしまう危険性は十分にあります。
命を救う側と動物たちが共倒れにならないためにも、明確な基準を設けることは必要なのです。
“子犬工場”をなくすために繁殖回数も規制を
また、繁殖回数を法で規制することも、悲しい命を増やさないための第一歩です。
実際、ヨーロッパやアメリカでは、繁殖が可能な年齢や一生のうちの繁殖回数が法で決められています。
パピーミル(子犬工場。大量に繁殖させて売る)のような悪徳ブリーダーを取り締まることは、法律が変わってもなかなか難しいもの。
ですが、現在の動物愛護法にある「曖昧さ」をなくしていくことができたら、日本も動物先進国に近づいていけるはずです。
「動物は命あるもの」。
そういわれても、今の法律(民法・刑法)で動物たちはモノと同じ扱いになっています。
彼らが「命あるモノ」ではなく、「命ある者」として多くの人に認識される日まで、法改正に期待し続けていきたいです。
<文/愛玩動物飼養管理士・古川諭香>
【古川諭香】
愛玩動物飼養管理士・キャットケアスペシャリスト。3匹の愛猫と生活中の猫バカライター。共著『バズにゃん』、Twitter:@yunc24291