カワウソ密輸の可哀相過ぎる実態 ペットブームが事件を招いた? 〈週刊朝日〉
2019年2月3日(日) AERAdot.
コツメカワウソを密輸していた男らが外為法違反(無承認輸入)の疑いで警視庁に逮捕された。
東南アジア原産のコツメカワウソは、国内では動物園や水族館でしか見ることができなかった。
だが、テレビ番組に取り上げられたことで話題を呼び、ペットとして飼われている姿がSNSなどで紹介されるなど、その愛くるしいしぐさから人気に火がついた。
同時に密輸も横行するようになった。
昨年6月、小動物と触れ合う「コツメイト」(東京都豊島区)を営む、代表の長安良明さんの元に1本の電話がかかってきた。
「毎週のようにコツメカワウソが入ってくる。何頭か買わないか」
電話の主は密輸業者だ。
「3頭連れてくると言っていましたが、現れた男は赤ちゃん2頭を売り込みに来ました。1頭は死んだとのこと。2頭も瀕死の状態でしたから。問い詰めると、密輸だと白状したのです」
これが逮捕につながった。
コツメカワウソを取り扱うあるペットショップでは、1頭約140万~約160万円で取引されている。
高額だが、問い合わせは多く、予約を入れて入荷を待っている客もいるそうだ。
コツメカワウソは、絶滅の恐れがある種とされ、ワシントン条約で輸出許可が必要な動物に指定されている。だが、いったん国内に入ると、密輸なのか、国内で繁殖されたのか判別しにくいという。
なかには「国内ブリード」をうたい、密輸の隠れみのとしているケースもあるようだ。
「現状、コツメカワウソの繁殖は、動物園でないと難しく、もし『国内ブリード』であれば、動物園からの販売許可証があるはずです。またはワシントン条約の書類が親のカワウソにあるはずです。それらの書類が提示できなければ、密輸が疑わしいでしょう」(長安さん)
インドネシアから正規ルートを通過するコツメカワウソの首元には、マイクロチップを埋め込んで管理され、寄生虫予防の投薬などを済ませてから輸出される。
だが、密輸の場合、親から引き離した生後まもない赤ちゃんを予防もせずに薬で眠らせてカバンに詰めて運ぶこともあるという。
インドネシア政府公認の保護施設から正規に輸入する長安さんによると、輸出許可の書類手続きや検査、などにかかる経費だけでも1頭50万円ほどかかる。
長安さんは4年前、あるペットショップから「密輸であれば30万円で取引できる」と聞き、安値に目がくらみ、不正が横行しないかと懸念していた。
「密輸ブローカーは10頭中3~4頭生きていればいいという計算をします。カワウソがかわいそうすぎる。国内の飼い主は入手経路をはっきりと確認してほしい」(同)
(本誌 岩下明日香)
甘えん坊のコツメカワウソは、しっぽの先や指をおしゃぶりすることも。まるで人間の子どものようなしぐさをみせる(撮影:岩下明日香)
カワウソ密輸に特殊詐欺団関与か 日本向け闇取引が急増
2019年2月16日(土) 産経新聞
愛らしい表情やしぐさでカワウソのペットブームがおこる中、東南アジアなどから密輸されたカワウソの取引に特殊詐欺団が関与している可能性があることが12日、捜査関係者への取材で分かった。
一部の種に絶滅の恐れがあるカワウソは、国際的な売買を禁止するワシントン条約の規制対象リストに登録。
国際的な監視団体が、日本向けの違法取引が顕著になっていると警告しており、水際での検査体制や暗躍するグループの取り締まり強化が急務となっている。
(大渡美咲、三宅真太郎)
■高まる人気
カワウソはイタチ科の動物で、短い手足に長い胴体が特徴。近年、テレビ番組などで取り上げられ、都内ではカワウソと触れあえることを売りにする「カワウソカフェ」がオープン。
ペットとして飼う人も増えている。
特に人気なのが、インドや東南アジアなどに生息するコツメカワウソやビロードカワウソだ。
ブームを背景に密輸が増加している。
昨年10月には、コツメカワウソ5匹をキャリーケースに入れて羽田空港に持ち込もうとした男2人が逮捕。
輸入先はタイで、5匹のうち4匹は死んでいた。
29年には生きたカワウソ10匹をタイから日本に持ち出そうとした日本人女子大生がタイの警察当局に拘束された。
女子大生は「バンコクの市場で1匹千バーツ(現在のレートで約3400円)で購入した」と説明したという。
■日本向け最多
国際的な野生生物取引監視団体「トラフィック」がまとめたカワウソの密輸に関する報告書によると、27年~29年に東南アジアで保護された59匹のうち、日本向けが32匹で最多。
とくに28年から29年にかけて押収量が急増しており、密輸されたカワウソはネット上で販売され、80~162万円の高値がつけられていた。
生息する湿地帯ではカワウソの乱獲の危険性があり、「世界のカワウソの個体数は過去30年で30%以上減った」との指摘も。
インドなどでは、コツメカワウソとビロードカワウソは現在、2種とも国の許可があれば商業目的の取引が認められているが、ワシントン条約の事務局に、規制レベルを引き上げるよう呼び掛けを始めた。
■背後の組織
「カワウソを3匹買わないか?」
カワウソやハリネズミなどの珍しい動物と触れあえる店「コツメイト」(東京都豊島区)に昨年5月、若い男の声で複数回電話があった。
カワウソが簡単に入手できないことを知る代表の長安良明さん(50)は不審に思い、仕入れ先を聞いたが、男は「知り合いからもらった」などと曖昧な返事を繰り返した。
3日後、長安さんの元に2匹のカワウソの子供が持ち込まれたが、痩せており鳴くこともできないほど衰弱。もう1匹はすでに死んでいた。
長安さんは密輸を疑い、警視庁に通報。
取引を持ちかけた男らは、外為法違反などの疑いで警視庁に摘発された。
捜査関係者によると、カワウソをカフェに持ち込んだ男の携帯電話からは、過去に特殊詐欺団が使用していた番号の着信履歴が見つかった。
男との関連は捜査中だが、密輸の背後に、振り込め詐欺団が関与していた疑いが浮上。
男らはカワウソの運び役や航空チケットの手配役など役割を分担して活動しており、組織的な犯行もうかがえる。
捜査関係者は「一部の男は『荷物を運ぶだけ』などと指示されて報酬目当てに加担していた。密輸の手順を指示した黒幕がいるはずだ」と話しており、背後関係の解明を進めている。
【用語解説】ワシントン条約
国際取引による野生生物の絶滅を防ぐため、1975年に発効した条約。
絶滅の恐れが高い生き物は付属書1に記載し、商業目的の国際取引を禁止する。
規制しなければ絶滅の恐れが高まる種は付属書2とし、輸出国の許可証の発行などを義務付ける。
東南アジアには4種のカワウソが生息し、ユーラシアカワウソのみ付属書1に記載。
コツメカワウソ、ビロードカワウソ、スマトラカワウソは付属書2となっている。