ホームレスに育てられた猫 氾濫した河川敷から救助、暖かな家の猫に
2018年12月29日(金) sippo(朝日新聞)
2017年10月に上陸し、豪雨をもたらした台風21号は、各地で河川の氾濫も引き起こした。
その被害は、人だけではなく、河川敷で暮らすノラ猫たちにまで及んだという。
保護団体にレスキューされ、現在は新しい飼い主のもとで暮らす猫に会いに行った。
チャトラン
神奈川県藤沢市内に住む鈴木祥世さん(36)が飼う、その猫の名は「チャトラン」ちゃん。
「こんにちは」と挨拶すると、穏やかそうな表情でじっと見つめ返してくれた。
名付け親は、多摩川の河川敷でノラ猫たちと暮らしをともにしていたホームレスの男性だ。
多摩川沿いには、捨て猫たちが繁殖し、十分な栄養を得られないまま衰弱する個体も多くいる。
心無い虐待も、過去に繰り返されてきた。
ノラ猫たちにとって過酷な環境の中で、チャトランちゃんはホームレスの男性やボランティアに温かく見守られながら、6年もの間生き延びてきたのだ。
しかし、そんな日々は、台風の到来とともに終わった。
ホームレスの男性の小屋も、チャトランちゃんたちの寝床も、河川に流されてしまった。
濁流に飲み込まれて姿を消したノラ猫もいたという。
途方にくれたボランティアの相談を受けて、保護団体「一般社団法人LOVE & Co. (ラブアンドコー)」(以下ラブコ)が残された猫たちの救助にあたる。
同じく保護団体の「NPO法人ねこけん」の代表、溝上奈緒子さんの協力も得て、チャトランちゃんを含む12匹を保護した。
飼い主の鈴木さんと
「余生はのんびり過ごして」
チャトランちゃんと鈴木さんは、その後、2018年の春にラブコのシェルターで出会うことになる。
もともと鈴木さんは、ラブコが販売するコーヒーやグッズを購入することで、シェルター運営を支援していた。
「猫は大好きだけど、ひとり暮らしだし、自分で飼いたいとは思っていなかったんです。ラブコさんを通じて、猫たちの支援はできるので」(鈴木さん、以下同)
ところが、保護した猫たちの多くが猫エイズのキャリアであること、加えてチャトランちゃんは心臓疾患をも抱えていることがわかった。
人懐っこく、愛嬌のある顔立ちではあるものの、持病があり、年齢を重ねた猫の譲渡は、長期戦が予想された。
「以前、拝見したラブコさんの写真の展示で、人に甘えて抱っこされるチャトランの姿にも心惹かれて。また、猫エイズキャリアであっても生涯を全うするケースも多いこと、発症させないためにはストレスのない生活を送ることが大切であることを知りました。それなら一日でも早く誰かのお家にいたほうがいい。病気は怖いし、猫を飼ったことがないから自信もない。でも、環境を整えることなら私にもできるから」
2018年6月、鈴木さんはペット可の住居へ引っ越し、翌月チャトランちゃんの正式譲渡が決まる。
持病が悪化したらすぐに獣医師に相談できるように、動物病院に近いことを条件に物件を探し回ったそうだ。
「猫が生きる時間は人よりも圧倒的に短いですし、あとはのんびり過ごしてもらいたいです。チャトランが住む世界は、ここしかない。私が与えてあげられるものが全てなんですよね」
(左)保護されて5日目のチャトランちゃん(ラブコ提供)(右)現在のチャトランちゃん
「多摩川の子たちを知って」
鈴木さんは、チャトランちゃんとの出会いを通じて、多摩川のノラ猫たちが置かれている現状を意識するようにもなったという。
お世話していたボランティアの方や、ホームレスの男性にも会いに行って話を聞いたりもした。
多摩川のノラ猫たちをケアしながら長年撮影を続けている写真家・小西修さんともコンタクトをとり、小西さんが幼きチャトランちゃんに避妊手術を受けさせてくれていたことを知った。
その後も数十回にわたり動物病院へ連れて行き、皮膚病や猫カゼの症状の治療にあたってくれていたそうだ。
「チャトランを知ってもらうことで、小西さんの活動や多摩川の子たちのことをもっと知ってほしいです。猫エイズのキャリア猫だって、こんなに元気で可愛い!」
チャトランちゃんへの溢れる愛が止まらない、2時間を超える取材。
締めくくりに、鈴木さんはこう語った。
「チャトランから癒されることもあるかもしれないけど、“癒しの存在”とは思いません。いっしょに暮らせること自体が、贅沢で幸せ。今日帰ってきたら、元気でいてくれた。ちゃんと排泄もしてくれていて、安心できた。そんな積み重ねの半年です。あまりにも素敵な毎日を、ありがとう」