[書評]『動物保護入門』:犬猫殺処分ゼロ実現に何が必要か
2018年7月27日(金) alterna
『動物保護入門 ドイツとギリシャに学ぶ共生の未来』(世界思想社)
ペットショップで見かける子猫や子犬は可愛い。
だが、売れ残った動物たちはその後どうなるか、考えたことがあるだろうか。
日本では各自治体の保健所や、闇の「引き取り屋」などにより、年間約6万匹の犬猫が殺処分されている。本書『動物保護入門 ドイツとギリシャに学ぶ共生の未来』(世界思想社)の著者は「動物が殺害されたり虐待されたりしている社会で、本当に『人間は幸せに暮らしている』といえるだろうか」と問いかける。
(独ハノーファー=田口理穂)
著者は、ドイツの動物保護などを研究している天理大学人間学部教授の浅川千尋さんと、ギリシャ・アテネ在住のジャーナリスト有馬めぐむさんだ。
本書では、保護施設や法を歴史的に発展させてきたドイツ、五輪前の野犬保護成功で急速に制度を変革するギリシャと日本の現状を比較しながら、どう改善できるかを提案している。
本書ではまず、日本の動物愛護の法制度や現場の取り組みを概括する。
そして「動物保護先進国」ドイツと「動物保護新興国」ギリシャの例を挙げながら、どうしたら日本でも人と動物の望ましい関係を築いていくことができるのかを考えていく。
本書では、欧州で一般的な「動物保護」という言葉を、人間が動物を保護の対象とすることを意味する用語として、意識的に用いている。
ドイツでは1933年に体系的な動物保護法が制定された。
現在、ティアハイムと呼ばれる動物保護施設はドイツ国内に500カ所以上もある。
200年以上前、動物愛護の父・アルバート・クナップ牧師が、捨てられたり、虐待されたりしていた動物を保護する施設をつくった。
これがティアハイムの原型である。
ティアハイムでは原則、殺処分ゼロで、保護された動物たちは、新たな飼い主が見つからずとも、一生そこで暮らすことができる。
本書で紹介される三大都市ベルリン、ミュンヘン、ハンブルグのティアハイム訪問記は興味深い。
ギリシャは体系的な動物保護法や保護活動の歴史が長くはない。
しかし2004年のアテネ五輪前に、アテネ市が野犬保護プログラムを導入、その成功から急速に制度を変革してきた動物保護新興国だ。
五輪の前年に犬の繁殖の制限、八週齢規制、動物取扱業の許可制なども法律化された。
その後、国家の財政危機という試練が訪れるが、官民一体となって犬猫殺処分ゼロの方針を守り続けていく。
2012年の法改正では、欧州で初めて、サーカスでの全ての動物の商用利用を禁止した。
■なぜ日本で殺処分がなくならないのか
一方、なぜ日本では多くの動物が殺され続けているのだろうか。
ペット産業において動物が「大量生産」され、生体販売されているという現実がある。
繁華街で深夜、酔った客が動物を衝動買いする様子も多く見受けられた。
2012年の動物愛護管理法の改正で、インターネットだけでの販売(必ず対面販売もしなければいけない)やペットショップの夜間販売(午後8時以降の営業)が禁止された。
さらに飼い主の終生飼養の責務が盛り込まれ 、行政の引き取り拒否が可能となったり、動物殺傷・虐待・遺棄に対する罰則が強化されたりした。
しかし、2020年の東京オリンピック・パラリンピックを控えつつも、多くの先進国で定められている繁殖の制限、八週齢規制、動物取扱業のライセンス制などがいまだ実現していない。
つまり動物を大量に殺すことになる流通過程や構造的な問題点が規制されていないままなのだ。
これらの実現のためには、まず市民一人ひとりが、日本の動物をとりまく現状、構造的につくられている問題の根本を知ることが、不幸な動物を減らす最初の一歩になる。
動物好きな人だけでなく、ドイツやギリシャの社会事情の考察としても興味深い内容で、多くの人に手にとってほしい一冊だ。
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書籍「動物保護入門」
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