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高齢者がペットを飼うことの「功罪」

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愛犬、愛猫が孤立・・・高齢者がペットを飼うことの「功罪」とは?

2018年7月1日(日) 読売新聞

高齢者の中には「第二の人生」を歩む時のパートナーとして、ペットを飼いたいと考える人も多いようだ。
しかし、実際には自らの病気やけがなどでペットを飼うことがままならなくなり、介護の関係者に負担をかけたり、近隣の人たちに迷惑をかけたりするケースも出てきている。
ペット業界に詳しいジャーナリストの阪根美果さんに、高齢者とペットを巡る現状と、高齢者とペットが幸せに暮らすための心がけなどについて解説してもらった。

◆70代の犬飼育意向「横ばい」◆
政府の統計によると、日本の総人口に占める65歳以上の割合は、昨年12月1日現在で27.8%と、総人口の3割に迫っています。
この割合は主な先進国の中でも最も高く、日本は世界一の「高齢化大国」といえます。
平均寿命も延びており、今後も高齢者の割合、人口ともにますます増えると予測されています。
高齢者がペットを飼うことは心身の健康維持につながり、認知症予防にも効果があると言われています。
ペットフードメーカーなどでつくるペットフード協会は、2017年度の「全国犬猫飼育実態調査」で、犬についてのみ年代別に飼育したいかどうかの意向を調べました。
調査によると、20~60代では飼育率、飼育意向ともに年々減少しているのに対し、70代は双方とも「維持」(横ばい)でした。
同協会は「70代は他の年代よりも犬を飼うための金銭的、時間的余裕があることがうかがえる」としています。
子供たちが独立し、退職した後の「第二の人生」を前に、ペットを新たな家族として迎えたいと思う人は少なくないのではないでしょうか。
特に独り暮らしの高齢者にとっては、ペットが心の支えにもなります。
しかし、高齢者が安易にペットを飼ってしまうことによって様々な問題が起きる恐れがあるのです。
高齢者とペットの「共存」をどのように考えるべきなのでしょうか。


写真はイメージです

介護現場で起こっている問題
◆ペットの世話が大変・・・預け先もない◆
東京都新宿区の若松町高齢者総合相談センターの窓口には、日々ペットに関する様々な相談が寄せられるそうです。特に多いのは、
「自分の体力が落ちてきたため、世話をするのがおっくうになってきた」
「検査入院が必要だと医師から言われているが、ペットがいるから入院できない」
「視力や握力が低下し、ペットの爪切りが難しくなった」
「ペットの健康に不安はあるが、動物病院へ連れていく(金銭)負担を考えると迷ってしまう」
――などといった相談だそうです。
飼い主自身の健康上と経済的な理由から、ペットの世話をすることが次第に困難になっていくことがわかります。
状況によっては、かなり深刻な事態に陥ることもあるといいます。

◆現場で起こっている問題とは?◆
訪問介護事業を手掛ける「ジャパンケア高田馬場」(東京)の訪問介護管理者・野澤久美子さん、ケアマネジャーの玉井依子さんは「ヘルパーが世話をできるのは介護保険の被保険者(高齢者)本人のことだけ。ペットの世話は(介護保険の適用範囲外で)法律違反になります」と説明します。
続けて「ペットの世話は高額な料金を支払って(ペットシッターなど)外部のサービスを利用することになります。経済的負担が大きいため利用する人は少なく、本人が動かない体で必死にペットの世話をしています。ヘルパーとして手を貸すことができないのが、もどかしく、とても心苦しい・・・」といいます。
また、同社の親会社で、介護大手「SOMPOケア」東京第4事業部の中田美紀さんも「ケアマネジャーの場合は、何度訪問しても費用は変わらない仕組みになっています。このため、ヘルパーができないことはケアマネジャーが対応するケースも多く、ここ数年、ペットに関わることが増えています」と指摘します。
ヘルパーに比べ、ケアマネジャーのほうが柔軟に動けるため、結果的にケアマネジャーにしわ寄せがいくようです。


写真はイメージです

深刻な問題の数々・・・
◆野良猫放置や引き取り手不足・・・◆
次に、実際に起こっているという実例を紹介したいと思います。
■車椅子生活、猫の世話が・・・
車椅子生活のAさんは身寄りのない独り暮らしで、介護保険で在宅介護を受けている状態です。
飼い猫のエサやりやトイレの掃除、体の手入れが思うようにできず、室内も猫の体も不衛生な状態になることがあります。
また、ペット用品を一人で買いに行くこともできません。
スマートフォンやパソコンにも詳しくないため、インターネットで注文もできず、近所の人に助けてもらい、なんとか飼えている状況だそうです。
■飼い主が施設に・・・多くの野良猫を放置
独り暮らしのBさんは体調を崩し、介護施設に入居することになりました。
普段から自宅で多くの野良猫の世話していたBさんは、自宅の窓を開けたまま施設に入居してしまったため、野良猫たちはその後もBさんの自宅に自由に出入りし、近所からは苦情が出始めました。
その後、Bさんの意向で自宅が取り壊されましたが、猫たちは居場所を失ってしまい、結果として野良猫たちは放置され、近所の人たちに迷惑をかけてしまうことになりました。
■度々の入院、猫の世話が滞り・・・
Cさんは心臓が悪く、高齢になるにつれて長期入院をすることが増えました。
以前から入院する際には、窓を開けたままにし、飼い猫を放置していたといいます。
あるケアマネジャーが関わるようになり、1~2週間に1度は猫たちの様子を見に行き、トイレの清掃やエサやりをしていました。
猫の命に関わるうえ、放置すれば動物虐待にもなり、悪臭などで近所に迷惑をかけかねないため、ケアマネジャーが動かざるを得ないという状況だったそうです。
ほかの飼い主を探すという選択もありましたが、Cさんの気持ちや猫の年齢を考えると難しいと判断した、といいます。
■自宅に戻れない・・・。残された猫達は
猫を2匹飼っていた独り暮らしのDさんは、3月に腰椎圧迫骨折で入院。
自宅に戻ることが難しくなりました。
入院直後は自費でペットシッターを雇い、猫の世話を頼んでいたのですが、経済的負担が大きいことなどから、4月末でペットシッターに依頼するのをやめてしまいました。
Dさんは猫をそのまま家に置いておいてほしいと言いましたが、命ある猫たちを放置するわけにはいきません。
2週間以上後、介護の相談を受けていた地域包括支援センターの職員がDさん宅を訪問しました。
猫たちは元気で、エサと水を大量に与えたそうです。
Dさんは殺処分もやむを得ないという考えでしたが、職員は根気強くDさんと話し、引き取り手を探すことにしたそうです。
ただ、「老猫ホーム」や施設などに引き取ってもらうには多くの費用が必要になるうえ、2匹とも高齢で、引き取り手は見つかっていないといいます。


写真はイメージです

ペットの存在は病気予防になる?
◆高齢者がペットを飼うメリットとは?◆
介護の現場から様々な問題が浮かび上がっているのは、まぎれもない事実です。
しかし、介護に携わる人たちも、高齢者がペットを飼うこと自体を否定的に思っているわけではないようです。
前出の介護関係者らは、高齢者がペットを飼うことにより、下記のような効果を感じているといいます。
(1)脳が刺激を受け、認知症などの予防につながっているように感じる。
(2)規則正しい生活ができるようになる。
(3)散歩やペットとのコミュニケーションにより、身体機能の回復が期待できる。
(4)ペットを介し、近所の人たちとの会話が生まれ、孤立を回避できる。
さらに、東京農業大学の太田光明教授(動物介在療法学)も「元気な高齢者なら、犬と暮らすことで散歩などによってほどよい運動ができるうえ、(『幸せホルモン』と呼ばれる)オキシトシンも増え、心も明るくなって、健康寿命が延びると考えられます。
また、運動することが難しい高齢者には猫のほうがよく、なでたり抱いたりすることで脳が活性化し、認知症の予防にもつながります。
さらに動く猫を見ることで視野が狭くなることを防げます」と解説します。
17年には、イギリスの科学誌「サイエンティフィック・リポーツ」で、「犬を飼うと(犬の活動に合わせて飼い主も行動するため)体が丈夫になり、心血管疾患や死亡リスクが低下する」という研究結果が発表され話題になりました。
「アニマルセラピー」が医療現場や老人ホームで実績を上げていることはよく知られていますが、ペットを飼うことは高齢者の健康維持に役立つことも多いようです。


写真はイメージです

高齢者がペットと安心して暮らすために
◆楽しく安心して暮らすために必要なこととは?◆
とはいえ、ペットは人間と同じく、命あるものです。
メリットがあるからと言って、高齢者が安易にペットを飼うことは避けるべきです。
それでも、飼ってみたいという人はいるでしょう。
その場合、「もしもの時」に備えておくことで、多くの問題を解消することができる、と筆者は考えています。
東京都が発行した冊子「ペットと暮らすシニア世代の方へ」では、困った時の解決方法をきめ細やかに解説しています。
こういった冊子などを読んで、ペットを飼う前、「命を預かる」という責任を全うするための準備をしておくべきです。
例えば、自身の体力などに合わせ、ペットシッターなどの民間サービスにかかる費用をあらかじめ調べておき、いざという時に利用を検討したり、行政機関や専門家らに相談したりすべきです。
さらに、けがや病気で自身が突然入院しなければならない場合の一時的な預け先や、万一に備え「次の飼い主」を見つけておくことも重要です。
また、自身とペットの年齢を併せて考えることも必要だと筆者は考えます。
子犬や子猫ではなく、成犬や成猫を迎えることも一つの方法です。
成犬や成猫は性格や習慣などが安定しているので、自分に合う犬や猫を選んで迎えることができます。
動物保護団体や優良なブリーダーから、保護されたり繁殖を終えたりした犬や猫を無償で譲り受けることも選択肢に入れるとよいでしょう(別途、ワクチン接種などの費用がかかる場合があります)。
ただし、飼い主の年齢に制限が設けられている場合がありますので、注意が必要です。
◆今こそ「高齢者とペット」について考える時◆
これまで述べてきたように、高齢者がペットを飼うことには様々な障害があります。
場合によっては、親類や介護関係者、近隣の住民らに迷惑をかけてしまうこともあります。
このため、高齢者がペットを飼うことに対し否定的な意見は多く、高齢者自身もあきらめてしまうことがあるようです。
しかし、もしもの時に備えてしっかりと準備をしておけば、ペットとともに充実した「第二の人生」を過ごすことができると筆者は考えます。
「命」に対する責任を持てる人にこそ、いつまでもペットと楽しく幸せに暮らしてほしいと願っています。
一方、介護現場での問題について、それを解決するためのシステムの構築が望まれます。
現在は専門家ではないケアマネジャーら介護職員が手探りの状態で動いています。
職員らもどうしたらよいのか悩んでいる、というのが現実のようです。
高齢者がペットを飼う上で大切なのは、前述のしっかりとした準備のほかに、周囲の支援態勢が大切です。
年々行政などへの相談件数も増えており、介護保険法などの見直しも含め、社会全体でしっかりと考えなくてはならない時期に差し掛かっています。

ペットジャーナリスト 阪根美果

◎阪根 美果( さかね・みか )
ペットジャーナリスト。世界最大の猫種である「メインクーン」のトップブリーダーでもあり、犬・猫などに関する幅広い知識を持つ。動物介護士・動物介護ホーム施設責任者。ペットシッターや野良猫や野良犬などの保護活動にも長く携わった。ペット専門サイト「ペトハピ」で「ペットの終活」 をいち早く紹介。豪華客船「飛鳥」や「ぱしふぃっくびいなす」の乗組員を務めた経験を生かし、大型客船の魅力を紹介する「クルーズライター」としての顔も持つ。


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