繁殖させすぎた犬猫を有料で引き取り虐待する業者が暗躍中
2018年6月14日(木) NEWSポストセブン
栃木・矢板の通称『引き取り場』で。悪徳繁殖場は全国各地に潜んでいる(写真提供/公益社団法人日本動物福祉協会)
今年3月、福井で犬猫約400匹を過密飼育した業者が、虐待容疑で刑事告発された事件をご記憶だろうか?
こうした飼育方法は、決して一部業者が行っている特殊なケースなどではない。
今まさにペットショップの店頭で販売されている犬猫の多くが、まるで“生産工場”のように、軽々しく作り出され、廃棄されているのだ。
今必要なのは、店頭のガラス窓で愛らしく笑うペットの裏で、あまりに多くの命が犠牲になるというシステムの上に、日本のペット業界が成り立っている現実を知ること。
そして、このシステムを根本から改善しようと声を上げることではないだろうか。
ペットを取り巻く“現実”と“これから”を、今こそ考えてほしい。
日本に1万3000軒超あるペットショップの店頭に並ぶ子犬や子猫は、工場のように大量生産する繁殖場(パピーミル)から、ペットオークションという競りを経て供給される。
これが大半の飼い主がペットを手にするまでのルートだ。
しかし、そもそも海外ではペットショップなど店頭での生体販売が一般的ではなく、子犬・子猫が生後56日(8週齢)以前に出荷されることも、欧米ではありえない。
本来なら子犬たちに免疫力がつく8週齢まで親元に置くのが理想だ。
「今の日本では幼ければ幼いほど好まれ、高く売れる傾向があり、わずか生後49日で出荷されることがほとんど。免疫力のない子犬たちの多くは、途中で命を落としてしまいます。そのため、より多く繁殖させ、出荷する必要が出てきて、大量生産・大量消費に拍車がかかるのです」(『動物環境・福祉協会Eva』のスタッフ)
また、免許不要で繁殖業が誰にでも始められてしまうのも、問題点の1つ。
「日本のパピーミルは庭先の小屋や民家で行われることが多く、まったくの素人が開業できてしまうのも特徴です。“必ず儲かるから”と持ちかけられて犬や猫を引き継ぐものの、実際には投資費用に比べて利益は少ないことの方が多い。そのため、負のスパイラルにはまっていく業者も多いのです」(『犬猫みなしご救援隊』のスタッフ)
◆処分したい犬猫を有料で引き取るビジネスが暗躍
一方、売れ残って不良在庫となった犬はどうなるのか。
実は「動物の愛護及び管理に関する法律」(以下、動物愛護法)の平成25年(2013年)の改正前まで、業者は売れ残った犬猫を自治体に持ち込み、そのほとんどが殺処分されていた。
しかし、法改正後は、行政が犬猫の引き取りを拒否できるように。
そうして行き場のなくなった、売れ残った犬猫の受け入れ先として存在感を増してきたのが、通称“引き取り屋”と呼ばれる過剰在庫処理業者だ。
「引き取りそれ自体は、違法ではありません。しかし、適切な世話をせずに衰弱させるなど虐待が疑われるケースは非常に多いのが実状です」(『日本動物福祉協会』のスタッフ)
近年、2014年に発生した鬼怒川河川敷大量遺棄事件(栃木)など、引き取り屋が起こす問題が頻発している。
※女性セブン2018年6月28日号
鬼怒川河川敷大量遺棄事件(栃木)
「箱を開けたら死んでいた・・」犬70匹遺棄事件犯人が懺悔告白
犬70匹遺棄の犯人「呪われると」
2014年11月22日 女性自身
「栃木県で70匹あまりの犬を捨てたのは、私です。関連する業者の皆さんや愛犬家の方々には、本当にご迷惑をおかけました。申し訳ありません」
本誌の取材にそう謝罪の言葉を述べ、頭を垂れたのは、栃木県内の元ペットショップ店店員A氏(30代後半)だ。
これまで関東圏のペットショップ数店を転々としていたが、現在は無職とのこと。
10月31日と11月5日、栃木県宇都宮市と那珂川町で相次いで発見された約70匹の犬の死骸。
栃木県警は現在廃棄物処理法違反容疑で捜査中だが、A氏はすでに11日に宇都宮東署に自首していた。そのうえで「事実を知ってもらい謝罪したい」と、事件の顛末を話すことにしたという。
A氏が愛知県内のブリーダーから「ブリーダーをやめるから、犬を引き取ってほしい」と電話で依頼されたのは、10月20日ごろのこと。
2歳から5歳くらいの成犬で、トイプードルやチワワなど7種、それぞれ10匹ずつほどいた。
引き取る費用としてA氏は100万円を受け取ったという。
10月28日、A氏は2トントラックを借り、荷台に工事用パネルで犬用の箱を3箱作った。
知り合いのペット業者らに連絡し、引き取った犬の里親や保護先を決めたうえで愛知に向かった。
「ところが愛知に行って犬を見たら、皮膚病にかかったり、やせ細った犬が何匹もいた。もともと杜撰な飼い方をするブリーダーで、私も何度か注意しましたが、改善されていなかった。でもそのまま犬を放置すると捨てられると思い、引き取ることにしたんです」
衰弱した70匹の犬を3箱に押し込んだら、余計に弱ってしまうはずだが・・・。
「スペースがなく、天気もよかったし、空気穴を作り、ふたの板にスペースを開けていたので、半日なら大丈夫と思った」とA氏。
だが、犬を引き取って5時間後、箱を覗いてみると、すでにすべての犬が死んでいたという。
A氏はそのまま栃木県に戻ったが、自宅に戻らず向かった先は、鬼怒川河川敷だった。
「途中、ごみ焼却場に、とも思いましたが騒ぎになると思い断念した。業者で火葬すると250万~300万円かかる。それなら土に返してやろうと思って河川敷に行ってしまった。今思えば処理する方法はいくらでもあったのに、パニックになっていました」
河川敷で40匹あまりを捨て、さらに那珂川町の山中で30匹あまりを捨てたという。
「箱から1匹ずつ取り出して放り出しました。あのときの臭いは忘れられない。呪われると思いました。俺は犬が好きなのに捨てた。いずれ問題になるだろうと思いました。罪は重いです」
逮捕を覚悟し自首したが、「裏付け捜査が必要」と言われ自宅に帰されたという。
「たぶん、11月中には逮捕されると思います。きちっとした処分を受けたうえで、捨てた犬(警察で冷凍保存中)は俺が火葬してやろうと思っています」
A氏は苦悩の表情を浮かべながらも、そう懺悔の言葉を発した。
現在、群馬県や佐賀県などで同様の犬の放置事件が起きている。
犬が悲惨な最期を迎える社会は、人間にとっても悲惨な社会だ。
(週刊FLASH12月2日号)
「殺処分ゼロ」が“引き取り屋”の暗躍を生み出している状況
2018年6月20日(水) NEWSポストセブン
殺処分される怯えきった表情の犬たち(写真提供/公益財団法人動物環境・福祉協会Eva)
空前のペットブームだが、店頭のガラスケージで展示販売される犬猫は、全てに飼い主がつくわけではない。かつて、ペットショップ業者は、売れ残ったペットを自治体で殺処分していたが、平成25年の法改正以降はそれができなくなった。
昨今、よく耳にするのが「殺処分ゼロ」。
殺処分とは、人間に危害を及ぼすおそれのある動物、そして、不要となった動物を行政が殺して処分すること。
全国の犬猫殺処分数は1974年の約122万頭をピークにその後は減少。
2016年は約5.6万頭にまで割り込んだ(環境省調べ)。
その大きなきっかけとなったのが、平成25年の動物愛護法改正の“終生飼養”の義務の明文化だ。
飼育している動物が寿命を迎えるまで、適切に飼育するべきとの方針が打ち出されると、かつて行政の殺処分施設だった各地の愛護センターが、命を生かす施設へと変わり始めた。
◆「殺処分ゼロ」にしても無駄死にする命は減らない
昨今では、東京都の小池百合子知事(65才)が宣言したように「殺処分ゼロ」を目指す自治体も増えてきた。
しかし、こうした動きを評価する一方で、殺処分ゼロを安易に掲げるべきではないとの声もある。
繁殖力が衰えた親犬・親猫を1匹あたり数千~数万円程度の有償で引き取る“引き取り屋”が、過剰生産と法改正で暗躍している。
「殺処分ゼロの方針のもと、自治体で殺されなかった犬や猫たちが、愛護団体、ひいては引き取り屋に移動しただけでは本末転倒です。
自治体が引き取りを拒否してしまえば、自治体そのものは動物を殺さずに済むものの、譲渡や飼養の責任を民間に押し付けるのでは意味がない」(『動物環境・福祉協会Eva』スタッフ)
自治体による引き取り拒否は、引き取り屋の活性化を生み出しているのも事実。
たとえ殺処分が回避されたとしても、そこでは劣悪な環境での飼育が待っている。
また、ある愛護センターでは、一旦引き取られたものの病気やけがの治療もされず、センター内でただ生きながらえているだけという、飼い殺しの状態の動物もいるという。
本当の意味で“殺処分ゼロ=命を救う”なら、法整備はもちろん、行政側での譲渡先の管理やセンターにいる動物の飼養体制を整えるほか、不妊手術費や治療費を予算化することも必要になってくるのだ。
※女性セブン2018年6月28日号