aiboが「介護犬」デビュー、ソニー高齢者ビジネスの武器に?
2018年5月9日(水) 週刊ダイヤモンド編集部
ソニーの介護施設「ソナーレ」で入居者と触れ合うaibo。介護効果への期待も高まっている
1月の発売以降、いまだ入手困難が続いているソニーの新型「aibo」が意外な場所で人気だ。
4月からソニーフィナンシャルホールディングスの介護事業子会社、ソニー・ライフケア傘下の介護付き有料老人ホームにaiboが“入居”し、ホーム入居者の介護をサポートする取り組みが始まったのだ。
既存3カ所の老人ホームと今秋新設予定の1施設に導入するほか、昨年4月に買収したゆうあいホールディングス(現プラウドライフ)が運営する全国26カ所の介護施設でも、aiboが巡回して入居者と触れ合う。
ソニー・ライフケアの中静道子グループマネジャーは「介護施設の顔として認知を広めたい」と語る。
ホームでは、エントランスやロビーなどのホールにaiboが常駐している。
各ホームでそれぞれ違う名前を付けられたaiboは、入居者の声掛けに応じて振り向いたり、いつもなでてくれる人を認識して懐いたりする。
また、音楽を再生しながら入居者と一緒にダンスをするなど、施設のレクリエーション補助の仕事もこなす。
本格的な効果検証はこれからだが、すでに「介護度が重く通常は車いすから起き上がれない高齢者が、aiboを見ると笑顔になり必ず体を起こすようになった」「自分の部屋にこもりがちだった老夫婦が、ホールに来てaiboと遊ぶことが日課になった」などの成果が出てきているという。
●“本物の犬”っぽさが強みに
介護士の肉体労働をサポートするパワードスーツや見守りロボットなど、人手不足を補うために介護現場でロボットが活用され始めている。
中でも注目されるのが、コミュニケーションロボットだ。
経済産業省が2016年に行ったコミュニケーションロボットの実証実験では、約900人の要介護者のうち34%の人に介護度が下がるなどの効果が出ている。
ただ、中にはロボットの見た目に拒否反応を示す高齢者もいる。
そこで、aiboに白羽の矢を立てたというわけだ。
aiboは外見で本物の犬を再現することを目指して設計されている。
また顔認証システムやAI技術を利用し、飼い主の顔を覚えて個体ごとに違った成長をするため、本物の犬を飼うような疑似体験ができるのだ。
動物と触れ合い、世話をするアニマルセラピーは認知症の予防などに効果が認められているが、介護施設では感染症予防や世話をする人手などで飼うのが難しい。
その点、aiboなら問題がない。
さらにaiboはネットにつながり、クラウド上にデータを蓄積できる。
現在は予定していないが、将来的にはaiboを通して介護記録をビッグデータ化し、分析するといった可能性も膨らむ。
13年に介護事業に参入したソニーの切り札になるかもしれない。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木洋子)
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ソニー新アイボを阻む「目新しさ」と「料金体系」の壁
2017年11月6日 週刊ダイヤモンド編集部
12年ぶりに「AIBO」が「aibo」に生まれ変わって帰ってきた――。
ソニーは1日、2006年に撤退したホームコミュニケーションロボット事業への再参入を発表した。
犬型ロボット「aibo」として、1日から予約を開始し、18年1月11日に発売する。
今回の目玉はAI(人工知能)。頻繁に会う人の顔を20人まで記憶し、「愛情をもって接するとその環境に応じて育つ」ロボットとなっている。
LTE(次世代高速携帯電話通信規格)とWi-Fiを通じてクラウドに常時接続し、aiboが搭載カメラやセンサーを通して見たものや学習したことをクラウドに記憶、さらにクラウド側では別のaiboが学んだデータを基にさらにインプットが行われるなど、いわば“地上と上空”で同時に学びながら賢くなるAIの技術が採用されているという。
自己完結型の先代AIBOと異なり、「どのようなものが生まれるのか開発者側が予測できない」と開発責任者の川西泉執行役員は明かす。
ちなみに今回のアイボの正式名称は小文字のaiboで、先代と異なり「イヌ型」と正式に標ぼうしている。
アクチュエーター(駆動装置)など、要素部品を独自開発し、メカ面で“リアルな犬”に近づけるための最新の技術が投入されているという。
先代AIBOの最後のモデルが発売されたのは05年。
それから12年ぶりの発売となるaiboは一言でいえば、「スマホ時代のaibo」だ。
ありがちな「スマホと連携して操作ができる機能が搭載されている」だけではない。
その中身も“スマホ的”な要素が満載なのだ。
まず本体の技術だ。
LTEを搭載し、心臓部となるプロセッサーにはスマホでよく使われる英アームの技術を使った米クアルコムのプロセッサー、スナップドラゴンが採用されている。
今回のaiboは開発仕様の一部公開も予定されている。
つまりソニー以外の第三者がaiboを利用したアプリを開発し、スマホのアプリストアなどを通して販売することもできる。
現状では初代AIBOと同様、飼い主の顔を覚えて芸やしぐさなどを覚えていく“ペット”としての機能しかもたないaiboだが、例えば、見守り機能や自宅の家電を遠隔操作するなどの機能を、スマホにアプリをダウンロードして機能を増やすかのごとく追加していくこともできるようになる、というわけだ。
ちなみに、事業中止から12年が経ち、先代AIBOの開発メンバーはごく少数しか残っておらず、メンバーの大半がスマホやカメラの事業部出身の30代前後の若手から構成されるという。
まさに“スマホ(開発陣が作った)aibo”である。
今回の“スマホaibo”の成否は、ソニーにとって重要な意味を持つ。
業績的にはなんとか浮上してきたソニーに現在欠けている「ソニーでしか作れないヒット商品」の候補の一つとみられているからだ。
99年に初代が登場した先代AIBOは累計で15万台を販売し、販売を中止しサポートが切れたいまでも愛好家がいるほどのインパクトを生んだ。
そんな先代AIBOのブランドやファン層という資産を重視して、ロボット事業への再参入を決めた1年半前にaiboを復活させることも同時に決まっていたという。
ウォークマンの再来なるか
ソニーは10月31日の第2四半期の決算発表で、2018年3月期の通期連結営業利益の予想値を、20年来の悲願だった5000億円からさらに上方修正して6300億円とした。
しかし、その内容は為替差益の影響や半導体の好調などによる押し上げ効果が強く、ヒット商品がけん引しての好業績とは決していえない。
果たしてaiboは、ウォークマンに並ぶような「ソニーでしかできないヒット商品」の再来となりうるのか。
aiboが成功するためには二つの壁がある。
まず17年の現在ではホームロボットという製品自体は目新しいものではなくなり、かつ競合他社の製品もそこまで爆発的なヒットにはつながっていない、という点だ。
ロボットが珍しくない、かつ先代AIBOを知らない世代にどのくらいアピールできるかは未知数だ。
さらに言えば、AIを支えるクラウドの技術はアマゾンウェブサービス(AWS)のプラットフォームを使っているなど、メカ以外の部分での「ソニー独自技術」は薄い。
さらに、スマホ的な料金体系も消費者に受け入れられるか不透明だ。
本体価格はロボットとしては平均的な19万8000円だが、クラウドへの接続やデータの保存、ソフトのアップロード・AI学習といった一連のサービスは有料で、3年間一括の場合9万円かかる。
使い続けるには自動的に別途コストがかかるわけだ。
うまくいけば平井一夫社長が今後注力すると発言している「リカーリング(安定した顧客基盤から継続的に収益を稼げる)ビジネス」になるわけだが、これが容易に顧客に受け入れられるかどうかも未知数である。
自ら顧客に近寄っていくことができ、しかもネットに常時接続している製品であるaiboは、これまでソニーを含み日本メーカーが獲得できなかった「家の中心的な役割を果たすプラットフォーム」の座を握ることができる技術要素を兼ね備えた製品であることは間違いない。
問題は、2000年代には支持を得た「ペットとしてのロボット」という切り口が、17年の顧客にどの程度のインパクトをもって受け入れられるかだ。
戌年の1月11日、ワンワンワンの日に満を持して発売される12年ぶりのaiboは、ソニーにとって幸先の良いスタートを切る材料となるのだろうか。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木洋子)
You Tube
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