身勝手の末にペット殺処分 苦悩する獣医
2018年3月5日(月) 福井新聞
狭いケージに押し込められた犬たち=2017年12月、福井県坂井市内(県内動物愛護グループ提供)
人と犬は1万5千年以上前からの「最良の友」だったとされ、猫もペットとして人気が高まっている。
一方、虐待や殺処分といった負の側面も後を絶たない。
福井県内で大量繁殖場「パピーミル(子犬・子猫工場)」状態とみられる施設の存在が明らかになった今、ペットとの共生を考える。
殺処分のため、麻酔薬と筋弛緩剤が注射された犬や猫。
体を支えている間にも力が抜けて、冷たくなっていく―。
「何とも言えない感触が手に残っている。こういう思いはしたくない。動物はふびん」と話すのは福井県医薬食品・衛生課主任で獣医師の糸井泰永さん。
「動物を助けたくて獣医師になったのに、死なせるのはやる方も精神的につらいですよ」と打ち明ける。
収容1万3419匹、殺処分8748匹。
2007年~16年度の10年間で、県内6カ所の健康福祉センターに収容され、殺処分された犬と猫の数だ。譲渡・返還され、命をつないだのは4647匹にとどまる。
「動物に苦痛を強いる」と愛護団体の批判も多い二酸化炭素によるガス処分は、福井県では20年近く前から行われていないといい、すべて注射による殺処分だ。
「引っ越しするから」「(動物が)病気になったから」「年をとったから」・・・。
「本当に身勝手な理由が多かった」と糸井さんは振り返る。
中には「小さいときは丸顔でかわいかったのに、大きくなったら鼻が伸びて、犬みたいになってきたから」と犬の引き取りを求めてきた人もいたという。
■ ■ ■
ただ、16年度に県が収容したのは、犬157匹(捕獲65匹、引き取り92匹)、猫465匹(すべて引き取り)の計622匹。
10年前に比べ3分の1に減少した。
飼い主に返還されなかった収容動物のうち、犬は98・4%、猫は66・1%が譲渡された。
この結果、殺処分されたのは07年度1476匹から、16年度は153匹と10分の1まで大幅に減少した。
背景には、飼い猫を無計画に繁殖させて、センターに持ち込むことを繰り返す飼い主に避妊去勢を勧めたり、まずは本人が譲渡を呼び掛けるまで引き取りを拒否したりといった地道な指導がある。
何より「飼い主の意識向上が大きい」と糸井さんは話す。
「動物が家族の一員として、より身近になっているのではないか」。
ペットがいなくなったときに警察や自治体に連絡することも定着してきたようだという。
■ ■ ■
今春オープンに向けて急ピッチで整備が進む福井市徳尾町の「ふくい動物管理指導センター(仮称)」。
県は「人と動物が共生する福井」の実現を図る中核施設と位置付ける。
新センターに収容動物の飼養管理を集約し、従来の健康福祉センターではできなかった長期間の収容を可能にする。
また、不妊去勢やマイクロチップ挿入、基本的なしつけなどを施すことで、譲渡率向上を目指す。
従来の動物愛護フェスティバルといった啓発イベントに加えて、「飼い方・しつけ方教室」といった飼い主教育、児童生徒に対する命の尊さを訴える教育などを展開していく計画。
糸井さんは「正しい飼い方を伝えることで、不要な繁殖や捨てられる犬猫が減り、結果的に処分する犬猫がゼロになれば」と話す。
センター整備を要望してきた県獣医師会の松澤重治会長は「動物の命の尊厳を守ることの大切さを県民に伝えられる施設になってくれれば」と期待している。
今春オープンに向けて急ピッチで整備が進む「ふくい動物管理指導センター(仮称)」=福井市徳尾町
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