病気と闘う子どもに笑顔を・・・日本にファシリティドッグを広めたい!
PEDGE
認定NPO法人シャイン・オン・キッズの概要
白血病による闘病生活の末に1歳10カ月で亡くなったタイラー・フェリスの両親が、2006年にタイラー基金(2012年に名称変更)を設立。
同法人は小児がんや重い病気と闘う子どもとその家族を支えることを目的に独自のプログラムを実施している。
心のケアを目的として病院や法廷、学校といった施設に派遣するために特別な訓練を受けた犬(ファシリティドッグ)と臨床経験を持つ医療従事者(ハンドラー)を子ども病院に派遣するファシリティドッグ・プログラムは、その中の1つ。
この活動はスポンサー企業や団体、個人からの寄付金に支えられている。
【森田 優子氏】プログラムリーダー
看護師として子ども病院で勤務していた時、一生懸命に働くほど時間に追われて終わってしまう状況に疑問を抱いていた。
ちょうどその頃、タイラーを亡くした両親が日本は世界最高水準の医療技術があるにも関わらず、患者さんへの心理的なサポートが不十分ではないかとの疑問からファシリティドッグ導入を計画しており、実行委員の1人だった大学時代の指導教員から「ファシリティドッグのハンドラーにならないか」と打診を受け、二つ返事で引き受けた。
ハワイでの2週間の研修を経て、ファシリティドッグのベイリーと日本で活動を開始することに。
ファシリティドッグの導入に苦労するも、静岡県立こども病院で2010年より活動開始。
患者さんの要望や病院関係者の理解もあって活動範囲が拡大した結果、現在では一般病棟やICUへの立ち入りが許可されているだけでなく、患者さんの治療方針を決める会議にも参加している。
「TEDxShimizu」に登壇するなど(2015年)、勤務の傍らファシリティドッグの普及にも尽力している。
Q.ファシリティドッグのベイリーが果たす役割について教えてください
長期入院中の子どもたちを元気づけ、前向きに治療ができるようなお手伝いをしています。
子どもたちとの触れ合いをはじめ、注射や歩行訓練への付き添いや手術準備室への同伴をしています。
日本ではファシリティドッグよりもセラピードッグという言葉を聞きなれている方が多いかもしれませんが、一般的なセラピードッグとファシリティドッグの大きな違いは、動物介在療法(治療への関わりを主体とする)かどうか、だと思います。
例えば、勤務体系1つをとっても、前者は週1~数カ月に1回の頻度で施設を訪れるのに対し、後者は特定の施設に常勤しています。
だからこそ、子どもたちとの間に信頼関係を築くことができ、治療に対する意欲を引き出すことが可能なのです。
中には注射が苦手でも、「ベイリーが側にいてくれるから頑張れる」という子もいます。
ベイリーの存在は病気と闘う子どもたちの心の支えとなっているのはもちろんですが、診療や治療をスムーズに進める効果もあります。
Q.ファシリティドッグ・プログラムの対象年齢はあるのですか?また、病気の種類や段階によってファシリティドッグと触れ合えないケースはあるのですか?
活動前のブラッシング
特に対象年齢は設けていませんし、病気の種類や段階によってファシリティドッグと触れ合えないことはありません。
もちろん、中には犬が苦手だという子もいるので、その場合は無理強いするようなことはありません。
ただ、「今まで犬は苦手だったけれどベイリーなら大丈夫」という子もいます。
ファシリティドッグを導入した当初は共有スペースのみの立ち入りでしたが、現在ではICUまで入ることができます。
犬の育成から院内でのリクス管理まで各種対策を徹底しているため、導入から7年間で感染症の発症や咬傷事故、来院者からのクレームといったトラブルが起きたことはありません。
Q.犬と接した経験のない子どもが初めてファシリティドッグと接する際に森田様が配慮されていることを教えてください。
子どもたちがベイリーと接する時には、私が必ず側にいるようにしています。
そして「自分の手の甲のにおいを嗅いでもらってから犬を撫でてね」ということや「後ろから犬に抱きつくのは良くないよ」ということも伝えています。
もちろんベイリーは後ろからいきなり抱きつかれても、嫌がる素振りを見せることはありません。
これは、人間が大好きだという性格と特殊な訓練によるものです。
ただ、ベイリーとの触れ合いを通じて犬への優しい接し方を学ぶことは、退院後に外で会った犬とも上手に触れ合うことができるようになると思いますし、犬に対して思いやりの気持ちを持って接することができるようになると良いなと思っています。
Q.ファシリティドッグとして活躍するには、特別な適性や訓練が必要なのですか?
病院という特殊な環境で働くため、生まれ持った適性と専門的なトレーニングの両方が必要です。
ファシリティドッグとして活躍する犬は、大らかで人間と仕事をすることが好きだと言われているラブラドールレトリーバーやゴールデンレトリーバーが多いです。
まだ日本では存在していませんが、海外にはファシリティドッグの育成を専門とするブリーダーがいます。
大らかで人間が好きなことや物事に動じない性格であることがファシリティドッグの条件なので、子犬の時から病棟に入ったり、人と触れ合ったり、時にはゲームセンターに行ったり、様々な環境に適応する訓練を受けます。
トレーニングを受けた後、ファシリティドッグとなった犬たちは、それぞれの適性にあわせて病院や法廷、学校といったそれぞれの施設に派遣されます。
日本にはこのような育成環境がないので、私はファシリティドッグとして訓練を受けたベイリーと一緒にハワイで訓練した後、帰国して活動をすることになりました。
子どもと触れ合うベイリー
Q.ファシリティドッグを導入した当初のことを教えてください。
日本には導入事例がなかったため医療現場の理解を得るのが大変で、導入先の病院を見つけることに苦労しました。
具体的には、犬を病院に入れるという衛生面での問題や活動費用の一部を病院が負担する必要があるという金銭面での問題がありました。
しかし、日本の医療現場を変えたいという思いからいくつもの病院に打診し、導入が決まったのが静岡県立こども病院でした。
はじめのうちは現場からの要請が少なく、30分以内で勤務終了ということも珍しくありませんでした。
しかし、ベイリーと触れ合ったお子さんやご家族の要望があり、次第に活動範囲が広がり、現在では患者さんの治療方針を考える会議にも参加しています。
医療現場からも、「ベイリーがいることで病院の雰囲気が明るくなった」「医療スタッフのモチベーションが大幅に上がった」といったファシリティドッグの効果が徐々に認められ始めています。
Q.現在日本で活躍するファシリティドッグは2頭と絶対数としては少ない状況です。日本でファシリティドッグの導入が遅れている理由を教えてください。
まず、ファシリティドッグの育成や稼働に多大な費用がかかることが一番の理由だと思います。
ファシリティドッグは要請を受けてからその病院に合った犬を育成するので時間と労力がかかります。
日本のブリーダー施設だと1頭1頭が犬舎の中で育てられるイメージですが、ベイリーの育った施設はハワイの大自然の森の中にあり、海も近くにある環境でした。
約1年半かけてのびのびした環境で育てられた犬は、病院でも穏やかな心を保ちながら仕事に臨むことができます。
日本にはファシリティドッグの育成施設がなく、こういった環境を再現しようとするとお金が必要なだけではなく、優良な繁殖犬の育成、専門的なトレーニング技術を持った人材、育成を支えるスキルの高いボランティアも必須であるため、現在は海外からファシリティドッグを譲り受けています。
また、ファシリティドッグ1頭が稼働するには初年度経費1,200万円、維持経費900万円(ハンドラー人件費、獣医診療費や飼料など犬の管理費、研修費用を含む)がかかりますが、活動資金は当団体に寄せられた寄付金と病院側の負担から捻出している状況です。
一方、ファシリティドッグの活躍が盛んなヨーロッパやアメリカでは寄付文化が進んでおり、寄付だけで活動資金が賄われています。
次に、医療現場の理解を得ることが難しいという理由もあげられます。
こども病院で犬を用いた動物介在療法に関する研究は少なくないですが、エビデンスのレベルが国際的にもまだ低いことが、普及のハードルになっています。
ただ、現場の医療スタッフにはファシリティドッグの効果を十分実感いただき始めていますし、ベイリーがいるという理由でこの病院を選ぶご家族も増えているようです。
今後もファシリティドッグに関する情報発信を積極的にしていき、こういった活動に興味を持って応援いただく方を増やしたいと思います。
Q.ファシリティドッグ・プログラムを通じて、どのような医療現場にしていきたいとお考えですか。
病棟へ向かう廊下
患者さんやその家族を精神面でもサポートする体制を充実させたいと思っています。
日本の医療技術は世界トップクラスと言われていますが、患者さんの精神面でのケアはまだまだ発展の余地があると思います。
私は、このプログラムを通じて、より多くの子どもが治療に前向きに取り組めるようにしていきたいです。
実は、私がハンドラーを引き受けたきっかけは、看護師時代に「ここ(病院)はなんだか牢獄みたい」と患者さんの家族から言われたことでした。
自分では患者さんに寄り添った看護をしていたつもりでしたが、家族の立場からはそのように見えるんだとショックを受けたことが、今でも原動力になっています。
Q.24時間一緒に過ごすベイリーと接する際、森田様が心掛けていることを教えてください。
ベイリーは、ファシリティドッグである前に、1頭の犬です。
私はベイリーが幸せな経験をできることをとても重視していて、休日はドッグランや海辺のように、思いっきり走り回れる場所に行って、ベイリーが心身共に気分転換できるようにしています。
休日を満喫
Q.ベイリーにとって、病院はどのような場所なのですか?
退勤後にお散歩をするのが日課なのですが、仕事モードがオフのときは、自分の行きたくない方向には絶対に行かない、私がいくらリードを引っ張っても地面に伏せて頑として動かない、なんて面もあるんです(笑)。
しかし、病院に行くことを嫌がった日は一度もありません。
それは、ベイリーが子どもたちを始め、患者さんの家族や医療スタッフ皆のことを大好きだからだと思うんです。
病院に行くと、皆がベイリーに向って話しかけたり、撫でたりとベイリーは大人気で、皆の思いはおそらくベイリーに伝わっています。
病院は、ベイリーの大好きな場所であることに違いありません。
このような活動が日本全国に広まるよう、これからも情報発信を続けて行きたいです。
ファシリティドッグ・プログラムについて - 神奈川県立こども医療センター編 -
https://www.youtube.com/watch?v=blK2cfZjGOQ