増加する捨てられた高齢犬
2013/12/16 MBS
高齢化社会と言われますが、人間だけでなくペットの犬も寿命が延びて、老犬として過ごす期間が長くなっています。
介護を必要とする犬もいるのですが、中には高齢で飼えなくなった犬を捨てる飼い主も増えているんです。
背景には、飼い主自身の高齢化の問題もありました。
大阪府門真市の東口さん一家。
飼っているシェパードの「ジャッキー」は今年14歳になる高齢犬で、1年以上前から足を悪くして寝たきり状態です。
エサはもちろん、水も自力では飲めません。
1日に数回、家族で協力して床ずれをしないように「ジャッキー」の体の向きを変えます。
以前は元気に走り回っていましたが、足が動かなくなった今は車いすに乗って散歩をします。
家族にサポートされながら、1日に1回、庭を3周する散歩。
これを1年以上、毎日繰り返しています。
「散歩させてあげないと?」
「そうなんですよ、動かないとすぐ弱ってしまうと思うので」
小さいころから「ジャッキー」と一緒に過ごしてきた、娘の裕美香さん。
自分の予定を削ってでも、「ジャッキー」の介護を手伝っています。
「もっと遊びに行けたらとか思ったりもしますけど、『ジャッキー』がずっと元気でいてくれるのなら、介護してあげたいですね」
獣医療の進歩などによって、犬の平均寿命は年々長くなってきています。
ある調査では(社団法人日本ペットフード協会)、犬の平均寿命は13.94歳というデーターがでています。
これは人間でいうと90歳くらい。
7歳以上をシニア犬、10歳以上を老犬とみなす犬の世界で、老犬として過ごす時間が長くなっているのです。
「ジャッキー」のように、介護を必要とする犬もたくさんいます。
その一方で、高齢犬をめぐっては、ある問題がおきていました。
京都市家庭動物相談所。
ここには、「捨てられた犬」が集まってきます。
飼い主がもう飼えなくなったと持ち込んできた犬や、路上や公園などに放置されていた犬も収容されています。
現在、ここにいる32頭のうち、10頭が10歳以上の犬。
今、高齢犬を捨てる人が増えているのです。
「4月にきているので、もう8か月以上はうちにいますよね」
高齢犬の柴犬。
老犬に特有の病気、白内障で視界が悪くなっています。
「まだ軽度なので、全然見えていないわけじゃないですね。この子は上から触られるのがあまり得意ではないので、下からゆっくりといきます」
この13歳の犬は、ひと月前、高齢の夫婦が飼えなくなったといって、持ち込んできました。
高齢犬が捨てられる背景に、飼い主自体が高齢化している現状があるのです。
「(飼い主の)体力が著しく落ちてきているということで、自分の手では飼い続けられないので、ということが放棄の大きな理由でしたね」
ここでは高齢犬も譲渡の対象にしていますが、寝たきりや認知症など引き取り手が見つかりにくい犬は、やむをえず殺処分しています。
「この子はだいぶ弱っていますね。このところ体力が落ちているのが顕著なので、よほど覚悟を決めている方でないと受け入れ難しいと、こちらでも感じていますね」
今以上に体力が落ちれば譲渡は難しく、殺処分も検討しなくてはいけません。
これが、捨てられた高齢犬の現実なのです。
「(受け入れる側の)気持ちとしては、若い子がいいということもありますよね。年齢を重ねると、そのあと一緒にいれる時間が短いという印象がやっぱりありますので」
高齢犬を捨てる人が増えているのは、京都市だけではありません。
大阪府でも、同じような問題が起きていました。
大阪府でも譲渡が難しい高齢犬は殺処分していますが、このことを伝えても持ち込んでくる飼い主が後を絶ちません。
高齢犬のなかには、飼い主の手を離れたその晩、息を引き取ってしまう犬もいます。
15年間、犬の相談を担当してきた伊勢川さんは、犬を持ち込んできた飼い主には思いとどまるよう説得を繰り返しています。
「犬は飼い主のことが好きなら好きな分、死にかけでも頑張って生きようとするんですよ。飼い主の手を離れて、寂しいところになってすごく悲しくなって死んでしまう。そんな子を何匹もみているので、なんで(飼い主が)もうちょっと頑張ってくれないのかとすごく思いますね」
高齢犬の介護は、経験しないとわからない苦労もあるといいます。
最後まで飼うためには、どうしたらいいのか。
飼い主を手助けするサービスも現れています。
行政の施設に集まる、捨てられた高齢犬たち。
譲渡が難しい場合は、やむをえず殺処分となることも少なくありません。
2013年9月、改正動物愛護法が施行され、飼い犬の「終生飼養」が明記されました。
これにより、「高齢犬」という理由で引き取りを依頼されても、自治体は拒否できるようになりました。
しかし、「引っ越しのため、飼えなくなった」などと、それ以外の理由をあげられた場合は引き取らざるをえず、抜け道も多いのが現状です。
飼い主が責任をもって最後まで飼うということにつきますが、飼い主自体も高齢化していて、サポートが必要なケースも増えています。
そこで、民間の様々なサービスもでてきました。
奈良県斑鳩町にある、この施設。
老犬を預かる「老犬ホーム」です。
飼い主から引き取られた7頭の犬が、ここで余生を過ごしています。
預かり料は、月に3万円台から5万円台となっています。
「お年寄りが増えているので、ご両親が手ががかかるので、わんちゃんまで手をかけられないという方が多いですね。最後まで看取りたいけど、みとれないので僕たちのところへお願いするということだと思います」
高齢犬には認知症でほえ続ける犬などもいて、1人で介護をしている飼い主の中には、精神的にも追い詰められる人がいるといいます。
高齢犬「ジャッキー」も介護のサービスを利用しています。
「ジャッキーちゃん、こんにちわ」
家族の手が足りないときは、老犬の訪問介護をする「ペットケアステーション」のスタッフがきて、代わりに世話をしてくれるのです。
料金は1回3,000円から。
介護用品の相談なども行っています。
「1日だけでも預けることができたら、だいぶ違ってくると思うんですね。かなり気分が楽になるので、そういう風に、私たちのようなサービスを利用しながらいかれる方が、ワンちゃんにとっても飼い主さんにとってもいいかなと思うんですね」
京都市で、月1回開催されている「犬友の会」。
ここでは、情報の少ない高齢犬介護の悩みを解消しようと飼い主が集まり、介護の情報交換をしています。
「やっぱり1人でくよくよすると、悪いほうへ悪いほうへ考えてしまいますけど、ここにくると『そんなものは、たいしたことじゃない』と言われるから、また頑張れます」
「たくさんのアドバイスと、はげましの言葉をいただいたので。その時は涙がとまらなかったです」
高齢犬「ジャッキー」の介護をする東口さん一家も訪問介護を利用するだけでなく、様々な人に相談しアドバイスをもらいながら介護を続けてきたと話します。
「いろんな方に助けてもらえるので、明るくできているけど、1人で何も情報ないとこだったら、辛い感じになるかもしれません」
「ジャッキー」はこの取材の6日後、東口さん一家に見守られながら、静かに息を引き取りました。
犬と人間の歴史は、1万年以上前にさかのぼるともいわれています。
人間のよきパートナーとして愛されてきた犬。
寿命をまっとうするために、飼い主の覚悟が問われています。
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