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岩合光昭「世界ネコ歩き」が映画に

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ネコの本能にハッとした! 岩合光昭「世界ネコ歩き」が映画に〈週刊朝日〉

2017年10月20日(金) AERAdot.



NHK BSプレミアムの人気番組「岩合光昭の世界ネコ歩き」が、テレビ画面を飛び出して大スクリーンに!
津軽のリンゴ農園で生まれたコトラの子猫たちをめぐる1年を中心に、海外6カ国の猫を追った劇場版。
21日の公開を前に、岩合さんに番組づくりの裏話や撮影で意識していること、そして猫を撮る思いについて明かしてもらった。
* *  *

──映画化の話はいつから進んでいたのですか。
2016年の春です。
NHKを通じて、映画会社から打診がありました。
僕たちの画面づくりは、画面構成などがもともと映画仕立てなので問題ないと思いましたが、テレビ用のカメラで撮影しているので、画質が映画館の大スクリーンに耐えうるかどうかが不安でした。
すぐにテストをして大丈夫だとわかり、胸をなで下ろしました。

──津軽のコトラ一家を中心に据えるというのは、映画会社からの提案ですか。
いえ、ディレクターと相談しました。
世界各国の猫たちをオムニバス形式にするだけでは、わざわざお客さまが映画館に足を運んではくださらないだろうから、一本柱が欲しいなと考えて、最も長い期間撮影した津軽に決めました。

──映画にはオムニバス部分も残されていますね。
劇場版世界ネコ歩きだからね、世界に行かないと(笑)。
でもね、世界のパートがあることで、観ている方の気持ちも、かえって津軽の猫たちに入り込んでくれるんじゃないかという思いもあったんです。
それで、今年7月、追加撮影のために津軽を訪れました。
追加分は、観てくださる方の心情を意識して撮っています。

──はい、冒頭の場面と重なって、ジーンときました。
不思議ですよね、カメラって。
撮っている人がジーンとしていないと、観る人も絶対にジーンとしてくれないんですよね。

──撮影中に岩合さんが猫たちにかけている声が、観ている私たちの気持ちと重なるなと感じます。
たとえばリッキー(コトラの子)を撮りながら、僕自身が、ファインダーが涙で曇るんじゃないかと思ったくらい感動していましたからね。

──動画と写真はどう撮り分けているのですか。
動画のカメラは基本的に三脚につけてあるし、一度録画ボタンを押せばまわっているので、一瞬であれば、同じ位置でスチール(写真)を撮ることもできるんですよ。
ちょっと引きの絵を動画で撮って、その間に、スチールを撮る。
寄りだと猫が動いたらフレームアウトしちゃうから(笑)。
でも、悲しいかな、いちばん肝心なところは、スチールでは撮れない。
自分は動画を撮りに来ているんだ、という意識を常に持たないといけないと思っています。

──そういうとき、ふっと写真家の意識に戻ってしまうこともあるのですか。
うーって唸ることも正直言ってあります(笑)。
でも、スチールを撮っているときに、ああこれ、動きを撮れたらなっていうときがいままでもたくさんあった。
それが、テレビ番組を通じてできるようになったっていう喜びのほうが大きいかな。

──動画の撮影はこの番組が初めてですか。
いえ、以前から撮っていました。
猫じゃなくて、自然番組ですが。
1980年代の終わり頃だったか、クジラが縁でNHKの番組に関わらせていただくようになり、けっこう動画歴は長いんです。
でもこれからは、動画からスチール写真が切り出せるようになりますよ。
2020年を境に8Kが主流になってきますから。

──4Kでも可能では?
可能ですけど、4Kの画質はまだポジには及ばない。
8Kなら完全にできるようになります。
そうしたら、一瞬を切り取る写真家はいらなくなっちゃうね(笑)。
でも、そういった意味で、スチール写真家としての目や経験を動画撮影に生かせているなとは思いますね。光の計算の仕方だとか、画面構成だとか。

──映画の場面一つひとつが「絵」になっていました。
でも、そういう時代も、変わってしまうのかなとも感じています。
僕なんかは、絶滅危惧種かもしれない。
ずっと、本能と感性で撮影をしているんですけど、周囲が少しずつ頭脳プレーに変わってきている。
たとえば、いまのハリウッドの劇場用映画なんかは計算しつくされていて、確かに映画としてはすごく迫力があって興味を惹かれるんですけど、僕らの世代からすると、人間的なものはどうなってしまうのかって思うんです。
映画も、人間性を失っちゃいけない。
ノーベル文学賞をカズオ・イシグロさんが取ったのは、やっぱり彼の書きたいものが人間の神髄だからだと思うし、それを失ったらダメだからなんだと思いますね。
先ほども言ったけれど、カメラマンって、自分の見て感じていることが、やっぱり画面に出ちゃうんですよ。
それこそがドキュメンタリーで、演出された劇場用映画と違うところなんだろうと。猫は演出できませんしね(笑)。

──猫は思いどおりにならないこともありそうですね。
思いどおりにならないことのほうが多いですよ(笑)。
リサーチしてから海外ロケに行っても、猫に会えないこともけっこうあります。
特に野良は大変で、映画にも登場するシチリアのドメニコには3時間くらい会えなかったし、ニューヨークの白猫ホワイトスライスなんて7時間待ちましたから(笑)。
本当に猫は犬と違うんですよね。
犬はある程度言うことを聞いてくれるけど、猫はむしろ、僕たちの望んでいるのと反対のことをしてくれることが多い。
でも、それが猫の魅力でもある。
毎回新しい発見があるから面白いし、観てくださる方の琴線に触れるシーンになるような気がしますね。
僕たちがハッと思わないと、感動につながらない。

──岩合さんがハッとされた、初めて見た場面は映画中にもありましたか。
短時間にとてもたくさんのネズミを捕るのを津軽で初めて見ました。
1匹捕まったなと思ったら、すぐ次を捕まえてきて。おなかがすいていなくても、チャンスがあれば捕るんだなって。狩猟本能なんでしょうね。

──そういう驚きも含めて、いちばん印象に残っている猫、もう一度会いたい猫はいますか?
僕は常に過去より未来のことを考えているから、次に会う猫のほうが気になるけれど・・・でも、ドメニコにはもう一度会いたいかな。
ホワイトスライスも、ピザ屋が閉店しちゃって、どうしてるかなと気になる。
でも猫はたくましいから、元気でいてくれると思います。

──まだ訪れていない国で、猫を撮りたい国は?
もちろんまだまだたくさんありますよ。
人が暮らしているところには絶対に猫がいるっていうのが僕の考えですしね。

──具体的には?
そうですね・・・先日、京都でワインを造っている友人に、フランスに猫がたくさん暮らしている城があると聞いたので、興味がありますね。
お城がひとつ全部猫だらけなんだそうです。
ただ、現実に行って見たら、えっ、これ?ってがっかりすることもあるので(笑)、想像を膨らませすぎないようにしています。

──映画を鑑賞する方へのメッセージをお願いします。
五感で楽しんでいただけたら。
頭ではなく、体で、楽しんでいただけたらうれしいです。

(構成/伏見美雪)
※週刊朝日 2017年10月27日号

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岩合光昭(いわごう・みつあき)
1950年生まれ。動物写真家。1980年雑誌「アサヒグラフ」での連載「海からの手紙」で第5回木村伊兵衛写真賞を受賞。1982~84年アフリカ・タンザニアのセレンゲティ国立公園に滞在。このとき撮影した写真集『おきて』が全世界でベストセラーに。1986年ライオンの親子の写真が、米「ナショナルジオグラフィック」誌の表紙に。94年、スノーモンキーの写真で、日本人として唯一、2度目の表紙を飾る。2012年NHK BSプレミアムで「岩合光昭の世界ネコ歩き」のオンエア開始。著書に『日本のねこみち』『世界のねこみち』『岩合光昭写真集 猫にまた旅』『ふるさとのねこ』『ネコを撮る』『ネコへの恋文』など多数。2017年10月21日から映画「劇場版岩合光昭の世界ネコ歩き コトラ家族と世界のいいコたち」公開予定。


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