亡き友よ 動物守り続ける
2013年12月12日 朝日新聞
ななと散歩する田村貴美さん=大島町、上田潤撮影
◆大島の田村さん、被災後に遺志引き継ぎ再開
伊豆大島(大島町)で動物保護に取り組んできたアルバイト田村貴美さん(51)は、台風26号の襲来後、土石流の恐怖で一時は外出できなくなった。
一緒に保護活動をした市村初美さん(53)は土石流の犠牲に。
市村さんの遺志を引き継ごうと、田村さんは再び活動している。
◇猫の里親捜しや募金「前へ進む」
被害の大きかった元町地区。
田村さんは息子(25)と12匹の犬猫と暮らす。
そのうちの1匹は、東日本大震災の被災地からやってきたイングリッシュセッターのメス犬「なな」だ。
東京電力福島第一原発の事故後、原発周辺では多くの犬や猫が飼い主と離ればなれになった。
動物保護団体を通じ、15匹の犬が大島町に引き取られ、田村さんはななの里親になった。
神達(かん・だち)地区に住む市村さんとは、福島から引き取られた犬のえさ代などの募金活動を通じて知り合った。
市村さんは2匹のシバイヌを飼っていたため、里親にはなれなかったが、「少しでも助けてあげたい」と、勤め先などで募金を呼びかけてくれた。
島内で野良猫に不妊手術を施す活動でも一緒になった。
市村さんは島内4カ所に募金箱を設け、回収係も買って出た。
今年夏、3カ月で3万円以上が集まった。
ななと散歩する田村さんを見かけると、市村さんは車を止めて窓を開け、「ななー」と大声で手を振った。
土石流が襲う3日前の10月13日。
田村さんは、初めての不妊手術の日程がきまったことを知らせるメールを市村さんに送った。
「やったね」。
その返信が最後のやりとりになった。
台風が去った後、土砂の中から、市村さんが飼っていたシバイヌの1匹の亡きがらを見つけた。
きれいに洗ってあげ、親族に引き渡した。
田村さんの自宅に被害はなかったが、外出するのが怖くなり、仕事も休むようになった。
ななも田村さんの気持ちを察したのか、離れようとすると激しくほえた。
約10日後、知人から「被災地域で、世話する人がいなくなった猫がたくさんいる」と連絡を受けた。
行方不明の人がいるなかで、猫の保護活動を再開することにはためらいもあったが、「初美さんが生きていたら、同じことをする」と心を決めた。
これまでに13匹を保護し、里親を探している。
被災で見送りになっていた不妊手術も無事終えた。
さらに3匹分の費用も集まった。
仕事にも復帰した。
先月、ななと市村さんの家の跡に行き、花を手向けた。
田村さんはブログに、市村さんが残した募金活動を続けると宣言し、こうつづった。
「大切な人たちが心に置いていってくれた物 そのすべてを忘れず引き継ぎみんなに伝える事 それがこれから私たちが前へ進む一歩だと思う」
(清水大輔)