女優・秋川リサさんを、“ひきこもり”から立ち直らせた保護犬「モモ」
2017年8月5日(土) sippo(朝日新聞)
大きな立ち耳がトレードマークのモモ
女優、タレント、ビーズ作家として活躍する秋川リサさん(65)が東京都渋谷区の自宅に“ひきこもり”状態になったのは、今から5年前のこと。
かろうじて仕事には行くものの、それ以外は家からほとんど出られなくなった。
きっかけは、飼っていた犬の死だった。
「チェリーという犬で、17歳まで生きました。家族だけでなく近所の人や友人にも可愛がられ、亡くなった日は家に20数人も集まったんです。でもその後、自分の心にぽっかり穴が開いてしまい・・・。チェリーは早死にではなかったけれど、晩年は病気で寝たきりで、もう少し早く気づけてあげればよかったとか、もう少し何かしてあげられたのではとか、考えてしまって」
チェリーが病気になる前は、どんな時も日に2度散歩に出かけた。
その散歩がなくなり、気力も失せてしまった。
一日が長く感じられ、部屋の模様替えばかりしていた。
「周囲にペットロスだよ、また犬を飼えば、なんて言われましたが、自信が持てませんでした」
リサさんは昨年6月には母親を89歳で亡くした。
その母が晩年、認知症になり、施設に入るまでの2年半は、在宅で世話をしていた。
母は散歩に行くといって、チェリーを連れたまま徘徊したこともあった。
そんな体験から、60歳を過ぎた自分が犬と暮らす決断ができなかったのだ。
家族に迎えるきっかけとなった1枚
◆周囲が後押し
だが、元気を失っていくリサさんの様子をみて、友人たちは“やはり犬のパートナーがいた方がいいのでは”と心配し、家族も背中を押した。
「独立した娘が『何かあれば、私やお兄ちゃんが犬の面倒をみる。ママ、最後のチャンスよ!』と言ってくれたんです。うちにいた犬は代々雑種だし、次も行き場のない犬を引き取りたいと思いました。でも自分で保健所にいって大勢の中から1匹だけ選ぶということがどうしてもできなくて・・・。そんな中で、1匹の子犬と巡り合ったんです」
それは、リサさんの友人がネットで見つけた犬で、個人ボランティア宅で保護されている“野犬の生んだ子犬”だった。
「『この犬はどう?』と写真を見せられた時、『あれ?』と思いました。チェリーには似てない犬がいいと思っていたのに、似ていたから。でも、引き取らないと、この子の命がわからないって、みんなが言うのよ。しかも保護されているのは香川県で、遠いなーと(笑)」
秋川リサさんとモモ
◆野犬が産んだ子犬
それでもリサさんは、現地のボランティアとやりとりをし、犬を迎えることにした。
子犬を迎えに新幹線で向かったのは、2014年12月。
岡山駅でボランティアと落ち合って、ケージに入った子犬を受け取った。
「その時、生後約2か月。媚びることもなく、“ふて寝”していました(笑)。ボランティアさんによれば、今の時代も平然と犬を山に捨てる人がいて、その犬が大きくなって、処分されることが多いようでした。親犬は撃ち殺されましたが、残った子犬たちは救出されたそうです」
リサさんは子犬を「モモ」と名付けた。
事前にドッグトレーナーに聞いていた通り、徐々に慣れさせるため、暗めの部屋に二つのケージをつないで、奥に寝かせて、手前でトイレをするように教えた。
水とフードを置いて「じっとそっと」見守ったのだ。
「モモにとって、私はご飯をくれる人だという認識がだんだん生まれたようでした」
引き取ってから2週間後、モモを暗がりの部屋から出し、リサさんは抱っこ紐で抱きながら家事をした。
さらに2週間後、初めて表に出て散歩した。
だが最初は、アスファルトの道路に腰が引けていたという。
「“ほふく前進”するので、『病気の犬?』なんて通りすがりの人に言われたほど。『ただのビビりです』って愛想よく答えたわ(笑)。最初の散歩の後、かむ癖が出たので、家庭教師(トレーナー)を呼びました。大型犬だし、幼い子どもに反応すると困るのでしつけないと。散歩で引っ張らないような訓練も受けました」
「ほらモモいいお顔して」
◆一緒にテレビ出演
あれから2年半・・・。
今年6月、取材のため、渋谷区のオープンカフェでリサさんと待ち合わせると、モモは颯爽と現れた。
大きな耳をピンと立て、ぴったりとリサさんに寄り添っている。
「うちに来た時に3キロだった体重が、今は19キロ。顔はホワイトシェパードに似ているけど、尾の感じは日本犬。成長して、かみも引っ張りもしないけど、ビビりは変わらないわね」
確かにモモは音に敏感で、車が通るたびにビクッと耳を動かす。
それでも昨夏には、リサさんと一緒にテレビ番組「徹子の部屋」に出演した。
大勢のスタッフにもモモは動じず、カメラ前で“女優然”としていて、司会の黒柳徹子さんにほめられたそうだ。
「モモはある意味マイペースなのね。過去の犬と比較することが心配だったけど、今は個性の違いが面白くもある。どちらも人に捨てられた犬だけど、その命は尊く、愛しいわ」
【写真特集】モモとの2年半
プロフィール
本 名:伊藤 リサ(いとう リサ)
生年月日:1952年5月12日
現年齢:64歳
出身地:東京都渋谷区
血液型:B型
身 長:172cm
高 校:文化学院高等部英語科卒業
職 業:女優/モデル/介護施設職員
父親はドイツ系アメリカ人と日本人の母親との間に生まれる。
16歳からファッション誌の専属モデルを勤め、秋川リサさんの知名度を“全国区”にしたのが女性週刊誌「anan」です。
「私を死なせて」・・・壮絶な介護の現場
筆者が打ち合わせの為に訪れたのはとある介護施設でした。
この施設は全国展開している有名な企業。
そこで所長やスタッフのお話を聞き、施設の紹介などを聞きましたが、その最中にも鳴り止まない“コールの嵐”
入所者やその家族が“トイレ介護”のため、ベッドに備え付けた呼び出しボタンを押すためです。
その度に打ち合わせは中断。
ようやく打ち合わせが終わったのは夕方近く。
その後も何度か打ち合わせや修正のためその施設を訪れる事になります。
筆者が話を聞いたスタッフの話は想像を絶するものでした。
まず、早朝に出勤すると全館の室温のチェック。
その後は食事介護の準備。
入所者各自の部屋まで迎えに行きます。
もちろん、全員が車いす。
スタッフ一人で介護者の身体を抱きかかえ車いすに乗せるのですが、これが重労働。
なんでも、介護者の身体と自分自身の身体を守る為にテクニックが必要とも。
中にはベッドに“寝たきり”の入所者も・・・
実際、食事介護の模様を見ていたのですが食前の薬も気をつけなくてはなりません。
自分で出来る事はなるべく入所者にやってもらうことが重要なんですが、特に認知症の方はそう上手くいきません。
食事の最中に目の前のお皿をひっくり返すことなどは日常茶飯事。
食事介護をしているスタッフの髪の毛をつかんだり、酷い時には顔を殴ったり・・・
また、せっかく食べたものを吐き出したりと。
朝昼晩とそのような食事介護があります。
その間のスタッフはオムツ交換にベッドの布団交換、洗濯、入浴介護、病院への連絡と・・・
息が休まる暇がないようです。
入浴介護では単にお風呂に入れてあげるだけではなく、着衣の脱着と爪切りや水虫のクリームを塗ってあげるなど、筆者が話を聞いたのはまだ20代半ばの若いスタッフでしたが、肉体的にキツいのは入浴介護だそうです。
介護の度合いにもよるのですが、一人で入浴介護をするときもあるとか。
洗髪から身体の隅々まできれいに洗い、自身も濡れながらも入所者をお風呂に入れてあげる・・・
その後はドライヤーで頭を乾かして頭髪のセットと。
そのスタッフが語る言葉が今でも鮮明に覚えています。
夕食のため食堂に皆が集まるときに綺麗な姿で送り出してあげたいと・・・
本当に頭が下がる思いでした。
しかし、そんなスタッフに堪え難い事も。
食堂に行けない介護者のため、部屋での食事介護の時のことです。
食事には一切、口をつけようとせずにその入居者から出る言葉は・・・
「お願いだから私を殺して」、「もう、死なせてちょうだい」・・・と。
ずっと寝たきりの入居者にどんな言葉も通じません。
この会話が食事の度に続くそうです。
まだ若い彼女にとって“自分の無力さ”をいつも痛感させられると言います。
しかし、今でも彼女は元気にこの施設での仕事を日々頑張っているようです。
何だか介護施設の話が中心になりましたが、秋川リサさんも臨時職員としてこのような高齢者介護施設で仕事をしています。
いつかは自分の行く道
彼女が高齢者施設で働く理由、それは介護する側、される側の気持ちを知る事と、いずれは“自分の行く道”だからと話します。
母親が認知症となり、自宅で新聞紙を燃やしたり、ガスの火を付けっぱなしにしたり、また“徘徊”のために保護された警察のお世話になったりと・・・
2012年にお母様を埼玉県の“特養”に入居させることになりますが、この間の苦労は計り知れないものがあったことは明らかです。
秋川リサさんは最近このように話します。
「介護って、それは大変ですよ。でも、過ぎてしまえばきっと笑える日も来ますから」・・・と。