2匹の野良犬『タロー』と『偽物タロー』のお話
2017年8月2日(水) わんちゃんホンポ
私が子供頃今では考えられないくらい野良犬がたくさんいました。
その時代に生きていた2匹の野良犬のお話です。
野良犬が増えた理由
田舎に住んでいた私はまだ家よりも畑が多く、何もないのどかな所で子供時代を過ごしました。
その頃私が住んでいた町は野良犬が多く、道路を横断する犬の群れがいたりして異様な光景でした。
その頃の犬の飼い方は、番犬として犬を飼っているお家が多くリードを付けずに家の庭にいたり、ひどい人になると「散歩に行っておいで」と外に犬だけ離して外でトイレや散歩を済ませ、お腹が空くと帰ってくるという飼い方をしている人もいました。
今では考えられませんが、その頃はそれが当たり前のように行われていました。
また避妊や去勢などの手術をしているお家の方が少なく望まれない妊娠を繰り返し、保健所に持っていくのはお金が掛かるとそんな勝手な理由で、生まれた子犬を海や山に捨てたり、近所のスーパーとか人が集まる所へ段ボールに子犬を入れ「もらって下さい」の張り紙をして置いてある事もよくありました。
そんな状態が続けば、野良犬は増えます。
そんな時代でした。
優しいタロー
私の近所に住んでいたタローは、足の悪い奥さんと旦那さん息子さんの3人暮らしでタローはいつも放し飼いでした。
夜にお腹が空けばお家に帰ってきてご飯をもらい、お腹いっぱいになると家の前でよく寝ていました。
タローのお家の奥さんは動物が好きで鳥や猫をたくさん飼っていました。
子供の頃から犬が大好きだった私は、いつも小学校に行く前家の前で寝ているタローの頭を撫でてから小学校に行っていました。
優しいタローは大人しく頭を撫でさせてくれて、飛びついたり吠えたりもちろん噛む事はありません。
いつも伏せの姿勢のまま小さかった私を怖がらせないよういつもじっと頭を撫でさせてくれました。
私は優しいタローが大好きでした。
偽物タロー
同じ時期に群れで行動していた犬達の中にタローそっくりの犬がいました。
いつも群れの先頭にいたのでおそらく群れのリーダーでした。
群れでいる時は怖くて近寄れませんが、1頭でいるとタローと区別がつきにくくタローと思って近づくと威嚇され吠えられるので私達は「ニセもんタロー」と呼んでいました。
ニセもんタローは完全に人間を敵視していて、襲ったりはしないものの威嚇して近づく事さえも出来ない怖い存在でした。
野良犬になった優しいタロー
ある日家族でご飯を食べていると、焦げ臭い匂いと共に障子が真っ赤になっているのに母が気がつきました。
障子を開け窓を開けると、真っ赤な炎が上がっていました。
タローのお家が燃えていました。
火の勢いはすごく子供心に怖くて泣きそうになった事を覚えています。
もし風が強ければ、私の家も燃えていたと警察から言われました。
家は全焼し、タローの飼い主だった奥さんは亡くなりました。
家で暮らしていた猫や鳥もほとんどが亡くなりました。
いつものように外に出掛けていたタローは無事でしたが、家に帰ってきてから、燃えてしまった家の前で悲しそうに一晩中鳴き続けました。
助かった旦那さんと息子さんはタローを置いて引っ越し、タローは焼けた家と共に置き去りにされました。
日に日に痩せていくタローをみて、何度も母にタローを飼ってくれるよう頼みましたが母は飼うことを許してくれませんでした。
私は給食で残したパンをこっそり持って帰りタローに食べさせ、友達や姉も同じように残ったご飯をタローにあげました。
その頃からタローは全身傷だらけになっていて、姉の話だと偽物タローの群れの犬に襲われていたと聞きました。
傷だらけで痩せたタローでしたが、燃えた家が撤去されて更地になってもその場から離れることはなく家の前で寂しそうに眠っていました。
保健所の職員と犬達
野良犬が溢れていた状況にやっと重い腰をあげた町の職員は捕獲に乗り出しました。
先に輪のついた長い捕獲棒を持った作業着姿の職員が、私達が遊んでいた空き地に現れその場にいた犬を捕まえていきました。
暴れる犬や檻に入れられて泣き叫ぶ犬。
私は怖くて動けませんでした。
その時友達がタローも危ないじゃないかと言われ、急いで家に帰りタローを探しました。
いつものように家の前で寝ていたタローを何処かに隠さなきゃと友達と色んな所に連れて行きましたが、どうしてもタローは元いた家の前に戻ってきてしまいます。
どうしようと友達と泣いていると、近所に住むおばあちゃんが話を聞いてくれて私が飼ってあげると言ってくれました。
おばあちゃんの家はタローのお家の近くで、いつもお庭から寝ているタローがみえ気になってきたと言ってくれました。
最初リードをつけられる事を嫌がったタローでしたが、少し経つと新しい暮らしにも慣れご飯もしっかり食べてくれるようになりました。
もう寂しくないし、暖かい犬小屋もご飯も優しいおばあちゃんもいます。
タローを虐める犬もいなくなりました。
捕獲された犬の中に偽物タローはいたかどうかはわかりませんが、その後から犬の群れはいなくなり偽物タローもいなくなりました。
最後に
優しいタローは2年後病気で亡くなりました。
おばあちゃんに看取られ、穏やかな顔で亡くなりました。
あの頃の私は小さくて無力で何も出来ませんでしたが、今でもタローを思い出します。
タローと共にあの頃群れでいた偽物タローとその犬達の事も忘れられません。
元々は、私達人間が無知な事から犬を飼いはじめ、望まれない妊娠から数が増えすぎてしまい捨てられその為に殺された犬達です。
あの犬達に罪はありません。
今の時代、野良犬自体珍しくなってきましたが、年間数万頭の犬が保健所で殺されています。
無知な飼い主が飼いきれなくなく保健所に持ち込んだり、都会ではペットショップで購入した犬を河川敷などに捨てダックスなどの小型犬が野良犬になり捕獲されるケースも多くなっているそうです。
無知な事は動物を不幸にします。
私達人間が犬と暮らす事に対して正しい知識や責任を持たない限り、不幸な犬はいつまでたってもいなくなる事はありません。