「捨て犬」「殺処分」がなくならない本当の理由
2017年7月12日(水) 東洋経済
生体販売の問題点とは?
日本のペット流通には「闇」の部分がある。
生体(せいたい)展示販売と殺処分という問題である。
欧米のペット先進国に比べ歴史の浅い日本のペット業界が、いびつな形のまま急成長したためと指摘する声も多い。
「ペットは物ではない」という基本的な倫理観が、ペット業者や飼い主に厳しく問われている――。
30年以上にわたりペットフード流通の第一線で活躍し、このたび『一流犬をつくる最強の食事法』を上梓した橋長誠司氏に、犬の生体販売の問題点を語ってもらった。
■なぜ捨て犬が減らないのか
近年、自治体などがようやく社会的に取り組むようになってきたのが、捨て犬の問題です。
神奈川県などでは殺処分がゼロになりました。
保護された捨て犬に里親を探すことで、殺処分をなくしています。
このような努力をしている自治体が増えつつあり、日本全体で年間に殺処分される犬の数は少しずつ減ってきていますが、それでも、まだ1年に数万頭という数の犬が殺処分されています。
数字は減少したといっても、基本的な問題は何ら解決していないのです。
なぜ、犬を捨てる飼い主がいるのでしょうか。
それにはさまざまな理由があると思いますが、ひとつには、子犬の売られ方に問題がありそうです。
少なくとも、ペットショップの店頭で買った犬が捨てられるケースが多いというのは事実なのです。
ペットショップで見て、「かわいらしい」と思ったから衝動的に買う。
でも、家へ連れて行くと子犬が言うことをきかない。持て余して、こっそりと捨ててしまう。
こうしたケースが多いようです。
また、いちばん気の毒なのは、ペットショップで大型犬の子犬が衝動買いされる場合です。
大型犬でも子犬のうちはまだ小さく、ぬいぐるみのようにかわいいものです。
ところが、大型犬は半年もすると急速に大きく育ちます。
毛色が大きく変わることもあります。
「かわいい」というよりも「強そう」といったほうがいい姿になると、「こんなはずじゃなかった」と戸惑う人もいるのです。
大型犬は体力もありますから、狭い場所では飼えませんし、散歩では飼い主さんの体力を必要とします。
それで持て余して、捨ててしまう人がいるのです。
また、中にはもっと身勝手な人もいるようです。
たとえば、いろいろな犬種が混ざった血統の子犬が売られることがあります。
すると、子犬が大きくなると、自分の考えていたのとは違う見た目に育って、「こんな姿になるとは思わなかった」と捨ててしまう人がいるのです。
このほか、しつけをしっかりできず、ムダ吠(ぼ)えするのに困り果てて捨ててしまう身勝手なケースもあります。
衝動的にペットショップで犬を買っておいて、自分の思っていたのと違うからと捨てるのは、犬を飼うという自覚に欠けていると思うのです。
かわいらしいから、という動機で犬を飼うことは、私個人としてはあってもいいと思います。
けれど、犬を飼うのは、ぬいぐるみやお人形を買うのとは違うことだけは、自覚しなければなりません。
自分の犬であるからには、責任があります。
その責任を果たす気持ちがないのなら、犬を飼うべきではありません。
■欧米のペットショップでは子犬を売らない
子犬がかわいいからと衝動的に買い、面倒になったからと捨てる。
これは買う側だけでなく、売る側にも問題があると思います。
日本のペットショップでは、子犬の販売が主な収入源となっていて、「子犬が売れればそれでいい」という態度の店が非常に多く、これが捨て犬を増やしている一因です。
大型犬の子犬を売るのに、成犬になるとどれくらい大きくなるのかさえ、きちんと説明しない無責任なペットショップもあります。
たとえば、ラブラドールレトリバーなどは、半年で急激に大きくなり、1年で成犬になります。
これに驚いて先述のように捨てるケースもあるのですが、店側がきちんと説明していたかは疑問です。
つまり、儲かればいいというペットショップが捨て犬を増やしているわけです。
子犬の販売は、ただのビジネスであってはなりません。
なぜなら、犬はただの物ではなく、命があるからです。
子犬を誰かに渡す人は、必ず、渡す相手に説明する義務があります。
そして、命のある存在とともに生きるという自覚を持っていることを確認してから、子犬をその人に託すべきだと思うのです。
少なくとも、これは欧米の社会では常識です。
その姿勢がよくわかるのが、ペットショップでの生体(せいたい)販売の禁止です。
生体とは、子犬や子猫など、ペットとなる動物のことです。
つまり、欧米のペットショップでは、子犬を売ることはしないのです。
では、犬を飼いたい人はどうするのかというと、ブリーダーから直接、譲り受けます。
ブリーダーに飼われている母犬のそばで健康的に育った子犬を、ブリーダーと相談して、じっくりと見極めたうえで購入するというのが、欧米では一般的です。
日本でも、ペットショップで子犬や子猫などの生体を販売できないようにすべきだと運動している人たちがいますし、近い将来、そうなるのではないでしょうか。
というのも、現在のペット販売のやり方にはさまざまな問題が指摘されているからです。
■売れ残った子犬を殺処分
犬は物ではありません。
なのに、お金儲けだけしか考えなくなると、ただの物として扱われてしまいます。
2015年度に国内で販売された犬と猫のうち、約3%に当たる約2万5000頭が流通過程で死んでいたという報道がありました。
つまり、売られる予定だった犬や猫の30頭に1頭が、死産でもないのに、売れる前に死んでいたのです。
これは、犬や猫を命あるものとしてではなく、物のようにぞんざいに扱った結果ではないでしょうか。
たとえば、これは少し昔のことですが、こんな話がありました。
子犬を販売している店ではどうしても、売れ残る子犬がいます。
ペットショップで半年も1年も売れ残っている子犬が出るわけです。
そんな子犬を置いておけば、食費ばかりかかってしまうので、生体販売の業者は困るわけです。
「それならば、誰かにタダであげればいいじゃないか」
そう思う人もいるでしょう。確かに、おカネを払って買う人はいなくても、タダなら「飼おうか」と思う人は見つかりそうなものです。
ところが、生体販売をビジネスにしている人たちは、こう考えます。
「売れ残りをタダにすると、値崩れする」
半年、1年待てばタダになると皆が思うようになれば、高いおカネを出して買う人がいなくなるというわけです。
売れない子犬を置いておけば食費ばかりかかる。
かといって、タダにして引き取り手を探すこともしない。
では、生体販売業者はどうするのでしょうか。
子犬を殺処分、つまり殺していたケースがあったのです。
焼却していたという話もありましたし、殺した犬を川に捨てたという事件もありました。
これは昔の話で、さすがに現在では聞かないようになりましたし、こんなことは行われていないでしょう。
けれど、ビジネスしか考えない生体販売業者により、売れ残った子犬がひどい扱いを受けているのは、今でも同じです。
売れ残った子犬を引き取る業者がいて、山の中のバラック小屋に犬を閉じ込めている例があるのです。
テレビニュースでこうした悲惨な状況を見られた方もおられるでしょう。
まさに、飼い殺しです。
■新たに犬を飼いたい人にお勧めの方法
こうした犬をめぐる残酷な現実が、しだいに世間に知られるようになり、行政も少しずつ動き始めています。
東京都の小池百合子知事も2020年のオリンピックまでに殺処分ゼロを目標に掲げています。
今後は、ペット販売についても、動物愛護の観点から規制が行われるでしょう。
たとえば、ペットショップで子犬を入れているショーケースの広さについて、現在は何も法的な規制はありませんが、近い将来、1頭当たり最低限の広さを確保する法律が作られると思われます。
そうなれば、ペットショップでは、子犬を売るために今よりも広い面積を必要とすることになります。
子犬を置いておくだけで今よりも高いテナント料がかかりますから、子犬を販売するビジネス上のうまみが小さくなるわけです。
こうした規制を厳しくすれば、事実上、ペットショップでの生体販売はできなくなるでしょう。
そのうち日本でも欧米のように、ペットショップでビジネスライクに子犬が売られるのではなく、ブリーダーから直接に譲り受ける時代になると思うのです。
実際には、生体販売をビジネスとしか考えない人々の抵抗もあり、簡単には解決しないでしょう。
けれど、少しずつでも、改善していくと信じたいものです。
そして、これから新たに犬を飼いたいという人には、自分からブリーダーさんのところに出向いていって、どのようなワンちゃんかちゃんと見極めてから飼われることをお勧めします。
ネットで検索すれば、ブリーダーさんと犬種の情報がたくさん出てきます。
それで目星をつけてから、実際にブリーダーさんのところに行ったらいかがでしょうか。
実際に出向いて見れば、ブリーダーさんの人柄、ワンちゃんの生育環境、しつけの状況、母親や兄弟の様子などがわかります。
つまり、愛情をもって育てられたワンちゃんか、どのような成犬に育つかといったこともわかるわけです。
命あるものを飼うのですから、これくらいはきちんと見てから、飼うようにしていただきたいものです。
橋長 誠司 :ピーリンク顧問