「ペットが飼えなくなってしまう可能性」を考えたことはありますか?
2017年5月9日(火) @DIME
皆さんは、愛犬や愛猫が飼えなくなった時のこと、自分の生活環境ががらりと変わってしまった時のことを考えてみたことはあるだろうか?
カナダに離婚を望むある夫婦がいた。
妻は飼っていた犬たちを引き取り、夫には面会権を与えるということを主張し、裁判所に申立てを行っていたが、判事は、「犬を子供のように扱うべきではない。このような例は時間やお金、そして公的システムの浪費になる」と裁定を下したというニュースが昨年の末に地元のCBCラジオニュースに流れた。
判事はこうも言っている。
「犬は素晴らしい生き物だ。・・・多くの人が犬を家族ととらえている。しかし、犬は犬なのである。法においては人に所有された家畜化動物であり、家族としての権利はもたない」。
結局、とりあえずは離婚が正式に決まるまでの間、犬たちは妻とともにいることとされたそうだが、犬たちのうち1頭はシニア犬であり、「(この犬に関しては)残された時間を妻のもとで世話を受けるということについて両者の間に異議がないということは救いだ」という言葉に判事の苦悩が見え隠れするような気もする。
ペットを愛する者にとって、そのペットはかけがえのない存在であり、他と比べることはできない。
1つの大事な命であって、守りたい相手だ。
しかし、その裏にはややもすると擬人化とは言わないまでも、まるで彼らが人間であるかのように扱い過ぎてしまう部分もあるだろうことは否めない。
このケースがそうだとは言わないが、犬は犬らしく、猫は猫らしく過ごさせてやりたいと思いつつ、ぎりぎりのところでその狭間を行ったり来たりしながら私たちは彼らと生活しているのかもしれない。
気持ちの上では時に人間以上。
しかし、法のもとでは単に動物。
飼い主としては苦しいところだ。
ところで、ペットは一度飼ったなら、最期まで面倒を見る。
それは飼い主に求められる基本的飼育姿勢であることは言うまでもない。
『動物の愛護及び管理に関する法律』第三章第一節第七条の4には、“動物の所有者は、その所有する動物の飼養又は保管の目的等を達する上で支障を及ぼさない範囲で、できる限り、当該動物がその命を終えるまで適切に飼養すること(以下「終生飼養」という)に努めなければならない”とある。
しかし、そうは言っても、明日はどうなるか先のことはわからないのも事実。
最初は幸せに暮らしていても、やがては離婚してしまうかもしれない。
この夫婦のように争い事に発展しまうこともあるかもしれない。
ペット不可のところへ引っ越さなければならなくなるかもしれない。
予期しなかった病気に罹ったり、ケガをしたりしてペットの世話ができなくなるかもしれない。
仕事がうまくいかなくなって、経済的に追い込まれることもあれば、自分が先に死ぬようなこともあるかもしれない。
筆者は、複数の犬を飼い、一人暮らしをしていた父親が急死し、自分は飼える環境にないので、貰い手を探しているという息子さんから相談を受けたことがあった。
病気の末期であることがわかり、とても大切にしていた愛犬を残して逝った友人もいる。
また、一家全員が事故で亡くなり、ペットだけが残されたというケースも耳にした。
「最期まで面倒を見る」、確かにそれは望まれるものではあるが、どうにもならないケースというのはあるものだ。
よって、ペットが途中で飼えなくなった人がいたとして、その事情もよく知らずに、「最期まで面倒を見るべきである、飼えないなら最初から飼うな」というようなことをただ闇雲に言うことは慎みたいと思っている。
先のことはわからないのであれば、私たちがペットを守るためにしてあげられることは何だろう?
それには、主に以下のようなものが考えられる。
◇まず、ペットの世話ができなくなる可能性がないというわけではないということを、一度くらい考えてみる。
◇自分に万一のことがあった時には、代わりに面倒を見てもらえるかどうか家族や友人などに確認・打診しておく。
◇そのような相手がいない場合は、動物病院やペットホテル、長期預かりサービスを提供している施設、動物愛護団体など、預かってくれる、または里親を探してもらえるところの情報をリサーチしておく。特に長期または生涯にわたりお願いしたい、里親を探して欲しいという場所が実際にあるなら、先方との綿密な話し合いあいや合意も必要。愛犬愛猫日記や手帳を作るなどして、世話の仕方を伝えられるようにしておく。
◇自分に万一のことがあった場合、ペットに関してこうして欲しいということを文書にして残しておく。
◇夫婦やカップルであれば、別々に暮らすことになった場合、ペットはこうするということについて話し合い、状況によっては合意書を作っておく。
◇余裕があるなら、ペットのために使ってもらいたいお金を用意しておく。
いずれにしても、自分の代わりに世話や管理を頼むのであれば、何よりその相手の信頼度、つまり人選が大事となるだろう。
たとえば、飼育費用を渡した場合、お金だけを受け取り、世話はきちんとしてもらえないということもあり得る。
使い道をきちんと説明または報告してくれる人を選ぶのはもちろん、お金の管理をする人を別に選んでおくということも必要になる場合がある。
お金と言えば、ここ数年でペット信託という選択肢も登場した。
日本で初めてペット信託契約を作成した行政書士である服部薫さんにいくつか質問をしてみよう。
Q1:ペット信託を簡単にいうと?
「病気・けが・死亡など飼い主にもしもの事があった時に、残されたペットがその後も不自由なく幸せな生涯を送るための資金と場所を準備できる仕組みです」
Q2:これまで何件くらいの契約が成立?
「現在進行中のものも含めると20件弱になります」
Q3:ペット信託を行うにはどのくらいの金額から可能? 最低限必要な金額は?
「ペット信託契約の仕組みを作るために私たち専門家に依頼する費用が16万円ほど必要です」
Q4:ペットのために信託する平均額は?
「これは飼い主さんの飼い方とペットの年齢によって様々です。現在の年間の支出額を計算してもらい、年齢に応じて支出額と医療費の予備を足して算定するようアドバイスしています。例えば 10歳のワンちゃん1匹の場合。食餌代15万、トリミング美容代5万、ワクチン・フィラリア予防・定期健診5万、その他トイレ用品等10万(すべて年間金額)とすると、1年間に35万の支出が予想されます。そこに年齢を重ねると病院へ行く回数も増えるでしょうから医療費の予備を1年間に10万として、年間45万円。現在のワンちゃんの平均寿命は15歳なので5年分は最低でも信託しておきましょうとお話しします。そうすると45万×5年分なので225万という一つの目安の金額がでます」
Q5:自分の財産の何割をペットのために残すのが妥当?
「特に目安というものはありませんが、配偶者にも相続財産を残したい場合はその財産を差し引いて残りをペットのために信託する方もいれば、お一人様なので、自分の老後の資金として5割を残し、残りをすべてペットのためにという方もいらっしゃいます。体調を崩してからでは、このような事を考える余裕はありません。元気な今だからこそできる万一の時の準備を、大切なペットがいる飼い主さんには是非しておいていただきたいと思います」
服部 薫(はっとり かおる)
ペットと最期まで一緒にいられるということは理想であり、願いでもあるが、万一の時のことを考えておくということも大事なのではないだろうか。
それがどんな形であるにせよ、ペットに対する愛情の表れであることに間違いはないと思う。
取材・文/犬塚 凛