ネコ残された仮設住宅 住民は20人、30匹がすみつく
2017年3月8日 朝日新聞
朝と夕方の1日2回、仮設住宅の住民や、かつて住んでいた人が、ネコたちにエサを与える=2月11日、宮城県山元町、福留庸友撮影
仮設住宅で暮らすネコたち=1月、宮城県山元町、桑原紀彦撮影
東北3県で、いまも3万5千人余りの被災者がプレハブの仮設住宅で暮らしている。
住民の数よりネコの数の方が多い仮設住宅があると聞いて、訪ねた。
■震災後「心の支え」
637人が犠牲になった宮城県元町。
その山あいにプレハブの建物が並ぶ。
「高瀬西石山原(たかせにしいしやまはら)仮設住宅」の看板が入り口に立つ。
朝6時半、軽ワゴン車が駐車場に滑り込んだ。
エンジン音を聞きつけた10匹以上のネコの群れが、脇の竹やぶから飛び出してきた。
引地(ひきち)とも子さん(69)と夫の構三さん(66)が、敷地内の12枚の皿に、キャットフードと牛乳を注いで回る。
黒いのはクーちゃん。
顔に星の模様があるのはホッちゃん。
いまご飯あげるから、ちょっと待ってね。
キャットフードを奪い合い、馬乗りでじゃれるネコたち。
食欲が満たされると散り散りに消え、空っぽになった皿が残った。
夫妻がここで暮らし始めたのは、震災の1年3カ月後。
町は「心の支えになる」とペットを認め、夫妻は飼っていたネコ1匹を連れてきた。
ある日、部屋の前でトラ柄のネコを見つけた。
やがて5匹の子を産んだ。
広場で子ネコたちがじゃれ合っていると、お年寄りや仕事のない若者が外に出てきた。
エサを与えて目を細める人もいた。
とも子さんは「あんな震災があって、みんなすさんでいたから」。
■「連れて行きたいけど・・・」
震災後、東北3県には最大時で11万6千人が仮設住宅で暮らし、この仮設にも219人が暮らしていた。
住宅再建が進むにつれて、修繕した自宅や災害公営住宅に移る人が増えた。
ただ、新しく建てられた災害公営住宅では、原則としてペットの飼育はできない。
「連れていきたいけど、ダメって言われてるから」。
ネコの面倒を見ていた入居者たちは、自治会長だったとも子さんにそう告げて、つぎつぎと去った。
引地さん夫妻も、津波で全壊した町内の家を直して、昨年5月に仮設を出た。
元気な数匹を残して、十数匹を連れて行った。
数カ月後仮設を訪ねると、自治会長の遠藤みよ子さん(83)から「ネコが増えてるよ」と声をかけられた。
目が開いたばかりの子ネコ2匹がよちよち歩いていた。
数日後、駐輪場で別の赤ちゃん3匹を見つけた。
軒下では5匹の子ネコが身を寄せ合っていた。
いずれも親ネコの姿はない。
「処分に困った人が勝手に置いていったのでは」と、とも子さんは思う。
■再建先から餌やりに
いまでは30匹ほどのネコが、すみついている。
住民は20人。
引地さん夫妻は毎朝、毎夕、車で10分ほどの自宅から通い続ける。
1袋4キロのキャットフードは3日で底をつく。
年金暮らしの夫妻に、月2万円の餌代は軽くはない。
この春、仮設住宅を出る70代の女性は、昨年秋に玄関のそばで見つけた子ネコと暮らしている。
一日の多くを室内で過ごし、一緒に寝起きするネコはかわいい。
でも、災害公営住宅では飼えない。
「結局、置いていくしかないかねぇ」
地元の女性は、昨年から納屋の中をネコに荒らされるようになったと話す。
苦情を言いたくなるが、ネコを飼うのが被災者だと思うと文句は言いづらい。
「もうじき仮設はなくなる。それまで我慢します」
■全員退去近づく
山元町の災害公営住宅は3月中にすべて完成し、5月の大型連休までに全員が仮設住宅を退去する見通しだ。
仮設住宅が封鎖されても、ネコたちにエサをやれるように、せめて敷地内に入れるようにしてほしいと、とも子さんは願う。
飼った人が最後まで世話をするべきだけど、無邪気にじゃれ合うネコを見ると放っておけない。
「このまま面倒を見るしかないのかな」
今は、そう考えている。
(桑原紀彦)
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〈震災後の避難生活〉
復興庁によると、震災直後は約47万人が避難所に身を寄せた。
住まいを失った人たちは、プレハブの仮設住宅や、賃貸住宅を借り上げた「みなし仮設住宅」に移った。
二つを合わせた入居戸数は最大12万戸。
昨年末は約4万5千戸まで減った。
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ネコ残された仮設住宅
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