「シロアリ探知犬」デビュー 臭いで発見率90%以上
2017年2月2日(木) 朝日新聞
シロアリ探知犬の「ビート」。においを嗅いでシロアリの発生場所を探す訓練をする=和歌山市有本、金子和史撮影
知らぬ間にすみついて家に被害を与えるシロアリ。
それを臭いで発見してくれる「シロアリ探知犬」が和歌山でデビューした。
「シーク!(探しなさい)」。
ハンドラーと呼ばれるリード役の宮嶋浩之さん(36)の指示で、ビーグル犬「ビート」(オス、1歳)が壁際でクンクンと鼻を動かす。
シロアリを隠してあるクローゼットの前で、ぴたっと座り込んだ。
「ショーミー(見せなさい)」。
確認の指示を出すと、跳び上がるようにして発見を伝えた。
ビートが所属するのは大手害虫駆除会社「アサンテ」(本社・東京)の和歌山支店。
シロアリのかすかな臭いで、場所を嗅ぎ当てる訓練を重ねる。現場での発見率は90%以上という。
床下に人が入ったり、壁や天井を壊したりせず、探知犬導入で場所を事前に把握でき、駆除の時間が大幅に短縮される。
特に神社・仏閣や文化財などの調査で、貴重な建物の損傷が抑えられる。
実際の調査を見た人からは「びっくりした」と驚きの声や好意的な意見がほとんどという。
同社でシロアリ探知犬が活動し始めたのは2006年。
当時、輸入材などから持ち込まれた「アメリカカンザイシロアリ」の被害が日本で増えていた。
日当たりが悪く、湿気の多い床下などを好む在来種と違い、乾燥した場所でも活動でき、発生場所が特定しにくい。
そこで、同社がすでに多くの探知犬が活動していた米国から1匹を日本に初めて導入。
今は「ビート」を含め3匹が活動中で、全国で建物や文化財など計約360件を調査してきた。
ビートは国内で育成された。
和歌山はアメリカカンザイに加え、温暖な気候を好み、海岸沿いに生息する「イエシロアリ」の被害が多いといい、同社にとって関西初の探知犬として昨年10月から和歌山支店に常駐する。
育成に携わった同社の丸山省吾さん(64)は「嗅覚(きゅうかく)などの能力に優れ、人なつっこくて人前でも動じない」と太鼓判を押す。
同社は「探知犬の活躍を機に、シロアリ被害に目を向けてもらえたら」とPR効果に期待を寄せる。
シロアリ探知犬を導入している駆除業者はまだ少ないが、熊本市のシロアリ駆除会社「ニッショウ化学」でも10年に米国から導入。
シロアリの活動が活発になる4~10月は2日に1回のペースで神社・仏閣や住宅などを調査し、熊本、福岡を中心に年間100件以上の依頼があるという。
同社の冨田博之代表取締役(55)は「犬を入り口に依頼件数が増え、市場も広がりを見せる。会社のイメージアップにもつながった」と声を弾ませる。
シロアリ被害に詳しい吉村剛・京都大学教授(森林科学)は「今後、空き家のシロアリ対策のために多くの家を短時間で調査する場合などに探知犬は有効。一方で、国内での訓練方法の確立や維持費などの課題もある。日本でも、米国などのように多くの探知犬が活躍できるかどうかは未知数だ」と話している。
(金子和史)
【動画】においでシロアリを探すシロアリ探知犬「ビート」=金子和史撮影
http://www.asahi.com/special/animal/