モデル浜島直子さん 命救った保護犬が今では「心のつっかえ棒」
2017年1月5日(木) sippo(朝日新聞)
浜島直子さんとピピ
2010年6月、ピピは東京都武蔵村山市内を母犬にぴったりと寄り添いながら、もう1匹の兄妹犬と一緒に歩いていた。
保健所に保護されたとき、母犬の体には繰り返し出産させられた痕跡が色濃く残っていた。
生後6カ月くらいと見られるピピたち2匹の子犬は、イタズラされたのか、首から下の被毛がバリカンのようなもので刈られていた。
殺処分が翌日に迫ったある日、3匹は動物愛護団体に救い出された。
モデルの浜島直子さんは偶然、その団体の譲渡会場を訪れ、ピピに出会った。
浜島さんは当時、クリサジークという犬種を飼いたくて2年前からブリーダーに予約をしており、もう間もなく子犬が家にやってくるというタイミングだった。
いまも一口ずつ、手のひらからフードをあげている
予約していた犬を断って
それでも、動物愛護団体のボランティアからピピの境遇を聞き、そのぬくもりに接してみて、ピピを引き取る決断をした。
クリサジークのブリーダーにキャンセルの連絡をすると「ありがとう。あなたのその縁をすごくうれしく思います」という言葉が返ってきた。
そのブリーダーも、保護犬に関する活動をしていたのだ。
浜島さんはこう振り返る。
「私がクリサジークにこだわっていなければ、2年も待つことなく、すぐにほかの犬種を飼っていたと思う。もしそうしていたら、うちのマンションは1匹までしか飼えない決まりだから、ピピちゃんと出会っても引き取ることができなかった。ピピちゃんとは、深い縁で結ばれているんです」
引き取った直後のピピはとにかく人間を恐れる犬だった。
浜島さんがフードを入れた器に触ろうとすると、食べ終わっていてもうなり、かみつこうとした。
浜島さんは人間の手は「敵」ではないことを伝えようと、ピピの頭をなでながら、一口ずつ手のひらからフードをあげるようになった。
仕事の時も、犬を同行できる現場であればなるべく一緒に連れて行った。
さまざまな人と触れ合わせて、人間は優しい存在であることを教えてあげたかった。
すると次第に、人間への恐怖心が払拭(ふっしょく)されていった。
フードを食べるときも、うならなくなった。
ピピが心のつっかえ棒に
ピピはトイレシートの意味も知らなかった。
トイレシートで排泄(はいせつ)をすることは知っているが、なぜかその上で寝てしまうのだ。
しかも時に、自分の糞を食べてしまうこともあった。
浜島さんは、軟らかい犬用ベッドを購入し、そこでピピを優しくなでてあげるということを、1カ月ほど続けた。
そうしてようやく、トイレシートの上で寝ることがなくなった。
「純血種であるシー・ズーが、繰り返し出産させられた母犬と一緒に放浪していた状況を見ても、繁殖業者が遺棄した子たちであることは明らかでした。最初は人間が何をしても無反応だったり、そうかと思うと突然うなったり・・・。人間に優しくされた経験がなかったのだと思います。トイレシートの上で寝ようとするのも、おそらくそういう環境でずっと飼われていたんでしょうね」
ピピと暮らし始めて5年目、14年10月に浜島さんは長男を出産した。
2人と1匹の生活に、赤ん坊が加わった。
浜島さんは妊娠中から「ピピちゃんが一番上の子どもだよ」と毎日何度も伝え続けた。
長男が初めて家に来た日、さっそくピピと対面させてみた。
長男をリビングに寝かせると、ピピは全身のにおいをくまなく嗅ぎ、しばらくすると50センチくらいの距離を置いて長男の横で寝始めた。
「それまではピピちゃんを子どものように思って、ベタベタとかわいがっていたんです。でも長男が生まれて家にやってきたときから、ピピちゃんは私の心のつっかえ棒みたいな存在になりました。育児や仕事でどんなに忙しくしていても、ピピちゃんは私をほっとさせてくれるんです。ピピちゃんにしてみれば、『我が家のアイドル』という地位を失って寂しさはあるのかもしれないけど、これが新しい私たち家族の形なんだなって思っています」
ピピは長男の面倒を見るのが得意だ。
たとえば浜島さんが洗濯をしているとき、長男がぐずったりウンチをしたりすると、ピピがトコトコとやってくる。じっと浜島さんを見つめ、ときおり寝室のほうに目をやる。
その動作で長男の異常を知らせてくれるのだ。
また、浜島さんが長男を叱ると、ピピは素早くやってきて、長男と浜島さんの間にお座りをする。
「ピピちゃんが息子をかばうみたいにするんです。それで私もばからしくなって、叱るのをやめる(笑)。出産前は、赤ちゃんにかみついたりしたらどうしようという恐怖心がありましたが、全く心配いりませんでした」